「音のない世界は、不幸ではない」新店舗にかける夫婦の思い

そして今回、齋藤社長が新たに乗り出したのが耳の聞こえない「ろう者」のための居場所づくり。「音のない」バウムクーヘン店をオープンする計画を立てました。

主に使われる言葉は、「手話」です。

(齋藤社長)「サインランゲージストア。手話とかボディランゲージとか。手話は表情も言語の中に入っている。すごくいい表情で接客する、お客さんもニコニコする光景をいっぱい見てきて、これって一個の可能性だと」

手話での接客は、「商品を売る」だけではなく「付加価値を生みだす」はず。そんな期待があります。試験販売を任されていた玉木さん夫婦は、この新店舗の店長になります。

3歳の時、高熱を下げる注射の副反応で耳が聞こえなくなった玉木さん。妻・千夏さんは生まれつきでした。

ずっと、音のない世界で過ごしてきた2人。社会とのつながりを持つのが難しく、一番、苦労したのは就職でした。

(玉木さん)「前働いていたラーメン屋では、手話はダメといわれ、口で言え!声を使え!といわれていました。楽しくはなかった。」

(妻・千夏さん)「小さいときから接客はやってみたい仕事の一つでした。お客さんに会って、レジを打つ、そういうのをやってみたい。小さい頃からの憧れ、でもそういう仕事はろう者には無理と言われて、やれませんでした。」

(妻・千夏さん)「音のない世界は不幸ではなく、不便

社会とつながりたくても、中々うまくいかなかったこれまでの生活。だからこそ、自分たちの店は、障害のあるなしに関わらず居心地の良い場所にしたいという強い思いがあります。

(玉木さん)「障害関係なく、誰でも来られて、仲良くなれるような店を目指しています」

(齋藤社長)「どうしても裏方の仕事で表に出られなかったりとか、最初から無理だとかダメだとか、チャンスすら与えられない。全部が全部自分たちでできなくても、周りに支える人がいたりとか、仲間がいればできることってある」

もうすでに、店の名前「ココトモファーム」の手話も考えてあります。両手を握り合わせる“友達”を表す手話に、輪を描く“バウムクーヘン”の手話を組み合わせました。

オープン当日。6畳ほどの小さな店舗に続々とお客さんがやってきます。

静かな店内。でも、笑顔があふれています。

(千夏さん:手話で)「4400円、冷たくておいしい、おいしい」

(客:ジェスチャーで)「ありがとう、頑張って」

耳が聞こえなくても…会計時の小さな幸せも、共有できます。

(客:ジェスチャーで)「すごいね、ぞろ目だよ555」

(玉木さん)「GO!GO!GO!」

(客)「ぞろ目はいいことが起きる前兆なんだって」

2人の店はこれからも “静かに”賑わいそうです。