梅雨が明け、いよいよ夏本番。数あるマリンスポーツの中でも、初心者が気軽に始められるとして『SUP』の人気が上昇しています。しかし、備えを怠ると命に係わる事故につながりかねないことをご存じでしょうか?
SUPでの事故が増加 気軽だけに備えが疎かに
“SUP”とは、スタンドアップパドルボードの略称で、ボードの上に立ち、パドルで漕いで楽しむものです。年々人気が上昇していて、アクティビティ予約会社「アソビュー」によると、サイト経由で予約した人は15年から22年で約7倍に増え、SUP体験を扱っている店舗は約3倍に増えているといいます。
SUPの魅力の一つは、すぐ体験を楽しめるところです。筆者もこれまで、初心者があっという間に海面をスイスイ滑るように進む様子や、ボードの上でヨガをする姿などをみて、うらやましく感じてきました。今年こそ、自分も始めてみたいと思っています。

早速ネットで調べてみると、“SUPセット”というものが販売されていました。特にレッスンを受けなくても自己流でも始められてしまう状況にあるようで、他のマリンスポーツに比べて敷居が低いようです。しかし、ここに注意が必要だと、海上保安庁担当者は指摘しています。
実はこのところSUP中の事故が増えているのです。2015年は6件でしたが2022年は70件(※1)で、事故の数は年々増加傾向です。その背景にあるのが、手軽に始められるからこそ、備えが疎かになっている点です。どんなに簡単そうに見えても、自然を相手にするマリンスポーツです。万が一の時に備えた注意点や準備が必要だと、海上保安庁の担当者は話します。

ほとんどが漂流事故 もしもの時にどう対応?
ーーSUPを始めたいと思っているのですが、どんな備えが必要でしょうか?
海上保安庁担当者
「SUPの事故を詳しく見ると、ほとんどが帰還不能という事態です。令和4年は、事故70件のうち、64件が帰還不能でした。帰還不能というのは、自力で陸地に戻れなくなってしまうものです。ですので、まず前提といたしまして、帰還不能といった事態に陥らないよう、活動をする前に①気象海象の状況や②自身の技能などを勘案し、SUP等を楽しんでいただくことが大切です」
ーー気象海象の状況、というのは、どういうことでしょうか?
「気象海象とは、⾵の状態や波の状況などをさすものです。SUPの場合、陸から海に向かう⾵などによって、沖合に押し出されてしまうと、特に経験の浅い人はパドルをうまく使用できずパドルをどんなに漕いでも自力で陸地に戻ることが難しい場合があります。
海上保安庁では過去の事故を踏まえ、⾵速5m/s以上、波⾼0.5m以上で遭難に⾄る可能性が⾼くなっていると注意喚起をしております。」
ーー海に出る前に、風、波の情報収集が必要なんですね…。そして、自身の技能ですが、SUPは簡単に始められることが魅力ですが、技術の習得を軽んじてはいけないということですね。
「基本的知識技能を体系的に習得することができるスクール等を受講することを推奨しています。
また海上保安庁では『SUP安全啓発用リーフレット』(※2)を作成し、SUPをする方々に対して安全啓発も行っています」
ーー具体的にどんなことが大切なんでしょうか?
「自己救命策3つの基本として、まず海に落ちても沈まないよう①ライフジャケットの着用です。さらに、②携帯電話の携行も大切です。これは連絡手段確保のためで、水中でも大丈夫なように防水パックを使用してください。そして、もしもの時は③118番の活用です。海上における事件・事故の緊急通報用電話番号です。

万が一帰還不能になってしまった際には、 姿勢を低くし、風の影響を受けづらくしてください。そして、連絡手段を用いて海上保安庁などの公的救助機関や民間救助団体へ救助を求めてください」
ーー姿勢を低く、ですか?
「体力を温存するため、無理にSUPを漕いだり、SUPから離れて泳いだりしないことが大切なんです。こんな例があります。
2022年10月に沖縄県竹富町でSUPツアー中の帰還不能が発生しました。事故者は漂流中、むやみに海に入らずSUPの上で救助を待ち、約14時間後に無事救助されております」
話を伺うと、改めて、万が一の時にきちんと対応できるよう、備えることの大切さを実感しました。夏真っ盛りで、SUPのみならず様々なマリンスポーツの季節になりました。自然を甘く見ず、自分の知識や技術を過信しない。その上で、存分に楽しむシーズンにしていきましょう。
※1出典:海上保安庁ホームページ
※2出典:SUP安全推進プロジェクト