世界の目がウクライナに向けられている間に、中国・王毅外相が南太平洋の島しょ国を歴訪している。南洋の小さな国々と中国との間に安全保障協定が締結されようとしていた。中国の狙いは・・・。そしてそれを傍観してはいられないアメリカの反応・・・。南の小さな国々の大きな変化を読み解く。

■「蓋を開けてみれば、もう陸海空が使える要塞になっている」

南太平洋のオリンピックともいわれ、1930年以降4年に1度開かれる総合競技大会「パシフィックゲームズ」。次に行われるのは来年、場所はソロモン諸島だ。

今回、中国の王毅外相が南太平洋の島8か国歴訪の最初の訪問地だ。実は、このパシフィックゲームズの開催に向けてソロモン諸島は、3年前まで国交のあった台湾の企業とスタジアムの設計・建設の協力を約束していた。ところが、2019年ソガバレ首相は4期目の続投を果たすと「国益に基づく対外関係の全面的見直し」を表明する。そして、9月台湾と断交、一方で中国と国交を樹立する。すると翌年には中国が、莫大な額でパシフィックゲームズのメインスポンサーとなった。この出来事は、中国の南太平洋進出を象徴している。この時期、駐ソロモン諸島の大使を務めていた遠山茂氏に話を聞いた。

遠山茂 元駐ソロモン諸島大使
「パシフィックゲームはソロモンの国運をかけていた。これをうまくやればインフラ整備にもなる。資金は(予算より)何倍も欲しかった。台湾はそこまで付き合いきれなかった。国交成立前に水面下で中国は「うちは全部やってやるよ」という話をしていた・・・(中略)中国はこれを全部無償で提供した。返さなくていいよって・・・」

台湾に親近感を抱いていた国民は当初戸惑ったというが、中国の圧倒的経済力はソガバレ政権にとってこの上ない魅力だったというのだ。

遠山茂 元駐ソロモン諸島大使
「これは噂ですが、ソガバレ首相の親戚も含め、だいぶ前から中国とビジネス上で取引があったようですし、付き合いは色々あった・・・」

こうして始まった中国とソロモン諸島の蜜月は、今年大きな展開を見せる。4月に両国は安全保障協定の締結を発表した。その内容は公表されていないが、草案がネット上に流出したことで明らかになっている。その内容は・・・

▼ソロモンは中国に警察・軍人の派遣を要請できる
▼中国はソロモンで船舶の寄港・補給ができる
▼中国は中国人の安全や事業を守るために軍隊を使用できる


草案通りに協定が結ばれたとは限らないが、軍を持たず警察力もほとんどないソロモン諸島にすれば国内の治安維持に“心強い協定”という側面もある。
だが、アメリカをはじめ西側は南太平洋に中国の軍事的拠点ができることを懸念している。

明海大学 小谷哲男教授
「すぐに軍事的拠点というのは現実的ではないが、最初は国内治安に協力するとしながら、一歩ずつ軍事的な拠点にしていく。アフリカ・ジブチでも中国は当初、海賊対処ということで軍の拠点を持ちましたが、蓋を開けてみれば、もう陸海空が使える要塞になっている。初めの目的と全く違う使い方をしているので、南太平洋でも同じこと狙っている気がします」

協定締結を受けてアメリカ、オーストラリアなどは共同で懸念を示した。しかし・・・。