航空自衛隊のF15戦闘機が2022年1月31日、石川県の小松基地から離陸直後に日本海に墜落した事故で、航空自衛隊は2022年6月2日、死亡した隊員2人が、平衡感覚を失い機体の姿勢を錯覚する「空間識失調」に陥った可能性が高いとする調査結果を発表しました。
(この記事は2022年6月に取材したものです)
事故は2022年1月31日の午後5時半ごろに発生し、前方の席で操縦していたとみられる飛行教導群司令の田中公司1等空佐(当時52)=空将補に特別昇任=と、後方の席に乗っていた植田竜生1等空尉(当時33)=3等空佐に特別昇任=が死亡しました。

航空自衛隊の事故調査委員会が、現場海域から飛行データを記録したフライトレコーダーを回収し、事故原因を調査していましたが、航空自衛隊トップの井筒俊司航空幕僚長は2022年6月2日の記者会見で、隊員2人が「空間識失調」に陥った可能性が高いとする調査結果を発表しました。
墜落直前で立て直しも間に合わず
死亡した隊員2人は、小松基地で戦闘機パイロットを指導する立場で、訓練で敵役を務める通称「アグレッサー部隊」に所属していました。
事故機は当日、夜間の飛行訓練のため、2機編隊の2番機として、午後5時29分に小松基地を離陸。すぐに雲の中に入って右に旋回する中で、機体が過度に傾いたとみられます。
離陸から約42秒後に、高度約650メートルに達したのを境に高度が下がり始め、機体はほぼ真横の状態で急降下。墜落の2秒前に異常に気付き、機体を立て直そうとした動きがみられましたが間に合わず、離陸から約53秒後、海面に衝突しました。墜落直前の速度は時速約720キロでした。

2人同時に空間識失調に?
「空間識失調」は、操縦士が平衡感覚を失い、機体の姿勢を錯覚する現象で、水平線を視認できない雲の中や夜間に生じやすいとされています。

小松基地の石引大吾司令も2022年6月2日、小松市役所で記者団に対し「ベテランでも新人でも誰もが陥る可能性がある生理的な現象で、完全に防ぐことは難しい」と述べました。
2019年4月に隊員1人が死亡した青森・三沢基地のF35A戦闘機墜落事故でも原因とされ、同型機では墜落回避システムが導入されました。
一方、小松基地のF15戦闘機は2人乗りで、操縦かんを握る前席のパイロットに緊急事態が発生しても、後席のパイロットへの交代が可能です。
しかし事故調査委員会は、フライトレコーダーを解析した結果、墜落の直前まで操縦かんが握られ、縦や横に動かそうとする力が加わっていないことから、隊員2人がいずれも空間識失調に陥り、機体の姿勢を把握できなかったと推定しました。

航空自衛隊の担当者は「なぜ2人とも気づかなかったのだろうと悩んだが、フライトレコーダーのデータは異常を示していない。他のパイロットの話や過去の経験から、2人とも(空間識失調に)陥ることもあるとわかった」と述べました。
小松基地は3月に訓練再開 再発防止策は
事故後、小松基地は領空侵犯に対する緊急発進(スクランブル)を除く訓練飛行を見合わせていましたが、2022年3月、地元の同意が得られたとして訓練を再開しました。

小松市の宮橋勝栄市長は、事故原因の説明に訪れた防衛省幹部らに対し、改めて再発防止策の徹底を求め、石引大吾基地司令が「安全に万全を期す」と応じました。
航空自衛隊は今後、隊員への教育を強化するとともに、VR=バーチャル・リアリティの技術を使った訓練装置の導入や、F15戦闘機への墜落回避システムの搭載に向け検討を行う方針です。