今年5月。中国・天津市にあるインターナショナルスクールで、ちょっと変わった授業が行われていました。
生徒たちが使っているのは「XR=クロスリアリティ」と呼ばれる技術。
これを使って環境問題の解決策を考えようというのです。


「XRを使うと、ビジュアル化が簡単で、理解しやすくなる」と生徒たちも興奮気味です。
XRとは、現実世界と仮想世界を融合し、知覚できる技術のこと。
「バーチャルリアリティ(仮想現実)」などの技術も含まれます。
例えば、このヘッドセットをつけると、そこに見えるのはバーチャルの心臓。

あなたが医学生ならこれを見ながら心臓の仕組みを学んだり、あたかも本物の心臓を触っているかのような感覚で手術の練習をすることができる。あなたがエンジニアだったら、バーチャルのエンジンを実際に触っているかのように感じながら、技術を習得できる。そんな使い方が期待されています。
XRを使った教育の普及に取り組む「世界イマーシブラーニング推進協会」青井隆政さんと大坪力基さん。

「XRは教育に革命をもたらす」、と口をそろえます。

大坪さん
「XRは子どもたちの潜在能力を引き出す可能性に満ちています。例えば不登校の子どもや島しょ部に住む子どももXRを使えば在宅で勉強ができる。時間や空間の制約がなくなり、それが子どもたちに自由と平等をもたらすのです」
この技術を日本ではなく、中国の学校で試した理由については。
青井さん
「マーケットや人口が圧倒的に多く、地球全体に与えるインパクトが大きいこと。また中国自身の発展や変化、進歩のスピードが非常に速いこと。我々が感じる1日がここでは1時間かもしれない。そのスピード感で発展しているのが今の中国だと思うので、日本が持つ知恵と中国のスピード、規模感が組み合わさることで、日中がともに取り組む意味があると思う」
課題はコスト。今は機材1つ約20万円と高額ですが、徐々にコストダウンできるのではといわれています。
今回の活動は天津インターナショナルスクールに在籍する学生の発案で始まりました。発案者の1人、周順航さん(17)はXRに目を付けた理由について「全く新しい教育、学習方法に衝撃を受けました。そしてこの技術を教育やよりよい未来の実現のために活用して、アジアから世界の平和と友好に貢献したいです」と語ります。


教育現場で進む急速なテクノロジーの進歩。しかし、青井さんは、最後に大切なのは「人」だといいます。
青井さん
「テクノロジーを進歩させるのも人間ですし、それを倫理観に基づいて管理するのも人間です。デジタル化や仮想現実化が進めば進むほど、実は隣にいる人と会話をする、といったプリミティブ(原始的)なコミュニケーション能力が必要になります。バーチャルで世界はつながっても、結局戦争や紛争を解決するためには、人と人とが会って話をすることが必要になる。デジタル化の時代は、人間不在の時代ではなく、逆に人間としての力が問われる時代なのかもしれません」
(JNN北京支局長 立山芽以子)