岡山県浅口市の文学館で、総社市出身の女性詩人の作品展が開かれています。「現代詩の母」と評される永瀬清子さんから指導を受け、岡山の文学界を牽引するなんば・みちこさんです。
読む人の胸を打つ、温かい言葉。みちこさんの詩に込められていたのは、命、そして父親への思いでした。
「胸にそっと手をあててごらん。トックントックン。走ったあとに手をあててごらん。ドックンドックン。すてきな人に出会ってごらん。ドッキンドキドキ」

さまざまな擬音で表現されているのは、心臓の音。この詩を書いたのは、なんば・みちこさん、89歳。岡山を代表する現役の詩人です。

浅口市の原田文学館で開かれているのは、「詩人なんば・みちこ展」です。詩を中心に、短歌や絵本など約70点の作品が展示されています。現在静養中だというみちこさんの代わりに、長女で自身も詩人として活動する直子さんが話してくれました。

(なんば・みちこさんの娘 矢部直子さん)
「詩人として一途だったこと。教員としては熱心だったこと。そして人を大切にしたこと。それが私の母じゃないかなと」

なんば・みちこさんは1934年(昭和9年)に高梁市で生まれました。中学生のとき、詩人・永瀬清子さんの作品に感銘を受け、詩人への道を歩み始めます。小学校や中学校の教員として働く傍ら、詩集の刊行を行い、これまでに数々の賞を受賞しています。
(言の葉舎文学企画学芸員 奥富紀子さん)
「父帰る 靴音待つや 冬の夜」

みちこさんが初等科5年生のときに書いたという俳句です。込められていたのは、父親への思いでした。
(言の葉舎文学企画学芸員 奥富紀子さん)
「お父様との別れを悲しんで、お父様を哀悼するような俳句が詠われています」

みちこさんの父・為雄さんは、太平洋戦争から帰還したあと従軍中にかかった病気で亡くなりました。直子さんも、この時の話を母親のみちこさんからよく聞かされたといいます。
(なんば・みちこさんの長女 矢部直子さん)
「シベリアから帰ってくるのを待ちわびていた父親が、目の前で苦しみながら死んでしまったというのは、本当に衝撃的なことだったと思うんです。戦争はみんなに辛い思いをさせるものだということはよく言っていました」

この体験からみちこさんは、人間や動物の生命をテーマにした作品を多く詠むようになったといいます。中でも、心臓の音=命の音を表現した「トックントックン」は文学界で高く評価され、今も年に3回ほど出版される童謡絵本「とっくんこ」の名前の由来となりました。
(なんば・みちこさんの長女 矢部直子さん)
「“命”というものを書くのが詩ではないかと思うので、母が特殊なことをしたとは感じていませんが、母なりの感性と自分の歴史とで書いたものだと思います」

今なお命、そして言葉と向き合い続ける詩人、なんば・みちこさん。その功績をたどる企画展は12月20日まで開かれています。
「わたしらみんな生きている 大空で大地でトックントックン」

(*原田文学館は月・火・水曜日のみ開館)