◆6月28日の控訴審判決 Mたちの行為を断罪

Mたちが全国の被差別部落の地名リストを本やウェブサイトに掲載することが「差別を助長する」として、部落解放同盟と原告234人が出版・公開の差し止めや損害賠償を求めた控訴審は6月28日、判決の日を迎えました。

TBSは「『差別されない権利が認められた』被差別部落地名リスト出版・公開差し止め訴訟 二審が範囲拡げる判決」と報じました。以下、TBSニュース(2023年6月28日)から引用します。

二審の東京高裁はきょうの判決で、部落差別について「人間としての尊厳を否定するものに等しく、許容することができない」と指摘した上で、「差別意識が依然として存在していることは明らかである」としました。

その上で、「憲法の趣旨などに鑑みると、人は誰しも不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ、平穏な生活を送ることができる人格的な利益をもつ」と指摘し、被差別部落の地名を公表することはこれを侵害するものと認めました。

東京高裁は今回、賠償額を一審から引き上げて550万円としました。

また、一審では、訴えを起こした原告の現住所や本籍地が置かれていないため、差し止めを認められなかった6つの県についても、過去に原告が住んでいたり、親族が住んでいたりする場合も差別を受ける恐れがあるとして、差し止めを命じました。

ただ、原告側は地名が出た全ての都道府県で差し止めを求めていましたが、10の都府県のものには差し止めが命じられませんでした。

(TBSニュース・2023年6月28日)

◆川口さんは高裁判決を高く評価

川口泰司さんはこの判決をどのように受け止めたのかが知りたくなり、問い合わせてみました。川口さんから寄せられたコメントは、次のようなものでした。

全国の部落の地名リストの出版やネット上に公開するという行為は、部落の人たちに対するプライバシー侵害であるだけでなく、第2審では、部落の人たちの「差別されない権利」を侵害する行為であると、私たち原告の主張や差別の現実をしっかりと踏まえた判決であり、大変高く評価しています。

また、第1審では16県が差し止めの対象から除外されましたが、今回の判決では6県があらたに追加されました。山口県の原告は私1人でしたが、今回、私の被害も認定されたことにより山口県も差し止めの対象となりました。

ただし、原告がいなかった10県などは差し止めの対象外になったことは、大きな課題だと思っています。このような本が出版されること自体が問題であり、原告がいるいないではなく、この本の出版自体を禁止する必要がありました。

また、今回の判決は、2016年の提訴時の被害認定であり、裁判以降も各地の部落を訪問し、画像や動画でネット上に公開し続けていきました。これらを削除するためには、また裁判をしなければいけません。

差別を禁止する法律がない状況では、司法の判断としてはこれが限界であり、今後は部落差別解消推進法を改正し、同和地区を晒すような行為を禁止する条文を盛り込む必要があります。

そして、今回の裁判を通して、私自身も含めてあらたに二次被害を受け続けてきました。被害者が民事裁判をして、その後も二次被害、三次被害にあうようなことがないよう、人権委員会などを設定して、被害者を救済する仕組みを作って欲しいです。

川口さんの気持ちを知り、考えました。

道はまだ遠い。でも、私たちは負けてはいけない。

そう思いました。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。