インフラや航空宇宙など様々な事業に取り組むIHIが、燃焼しても二酸化炭素を排出しないアンモニア事業に力を入れている。脱炭素戦略の切り札になるのか。アンモニアの可能性についてIHIの井手博社長に聞いた。

世界初アンモニア100%発電成功。課題はCO2フリーのアンモニア

――IHI、かつては石川島播磨重工。重工はモノを作り顧客に使ってもらうこと自体がCO2を出すビジネスだ。脱炭素時代になったのは大変なこと?

IHI 井手博社長:
大変なことです。ある意味真逆なことになってしまうので。これまで我々がやってきたのは化石燃料を使いながらその効率をどんどん上げていく、すなわちCO2という観点からいけばCO2を下げていくということを徹底的にやってきたという歴史でした。技術もいろいろな知見も含めて、我々がこれから先も貢献できる技術はなんだろうと。

IHIが脱炭素の切り札に選んだのがアンモニアだ。アンモニアはG7広島サミットの共同声明でも火力発電でのアンモニア混焼が条件付きで容認されるなど、世界でも注目を集めている。

――脱炭素の主役は水素だという声がある一方で、アンモニアに注力する理由は何か?

IHI 井手博社長:
既存の設備を流用することができるという意味で、いち早く脱炭素の世界に入る入り口としては非常に使い勝手がいいのではないかということと、今も相当世の中で使われています。肥料もそうですし繊維だとか食品も含めて使われていますから、全く新しいものでもないということも含めてアンモニアについて我々は注目をして進めてきているということです。

アンモニアはHの水素とNの窒素で構成されているので、燃焼しても二酸化炭素を排出しないカーボンフリーの物質だ。次世代エネルギーとして注目を集める水素と比較しても、水素はマイナス253度で液化するのに対し、アンモニアはマイナス33.3度で液化するため、輸送、貯蔵が容易だ。

――アンモニアのメリットは液体水素に比べると扱いやすいということがある。コストメリットは相当あると考えているか?

IHI 井手博社長:
温度がそれほど低温ではないマイナス33度ぐらいですから、例えばLPGなどと同じような扱いになります。コスト的にも極低温ではないので経済的に投資しやすいということになると思いますし、例えば既存のLPGタンクを補強して使うことができるので、新たにまた極低温タンクというのを作らなくても済むとか相当ハードル低いと。

――燃料として石炭にアンモニアを混ぜて燃焼させる混焼がいよいよスタートする?

IHI 井手博社長:
JERAさんの碧南火力発電所という大型石炭火力発電所で、2024年3月から石炭にアンモニア20%を混ぜて燃やすという商用の大型発電がスタートします。1年前倒しして、一刻も早くCO2に向き合わなければならないので、今まさに佳境に入っています。

――アンモニア混焼を進めることでCO2を少しでも減らすことに貢献できるということか?

IHI 井手博社長:
混焼を英語でco-firingとすると、どうしても石炭を残すためにやっているのだろうという印象を持たれてしまうのですが、結局炭素を出さない燃料を使うということが目的で、たまたま使っている設備が石炭火力発電所ということなので、我々は20%でとどまらず、50%、60%とどんどん上げていくということをやっていますし、それをいかに早くするかということだと思っています。

IHIは1853年に石川島造船所として創業を開始。現在の本社がある豊洲にも造船所を構えていた。2022年、IHIが世界で初めてガスタービンで液体アンモニアのみを燃料にした発電に成功した。

IHI 技術開発本部 内田正宏主査:
始めた当時はアンモニアを燃焼させた経験がなかったので、まずアンモニアがどのくらい燃えるかわからない。アンモニアをどう取り扱っていいかわからないというところからスタートして、徐々に燃焼試験を行って技術的なところを詰めていきました。約10年かけて液体アンモニアを専焼させる技術を作ることができました。

そもそもアンモニア発電には様々な課題があった。アンモニアは燃焼速度が遅く、安定して燃焼させるのが困難だった。燃焼の際には有害な窒素酸化物が発生するという問題があった。そこでIHIは航空技術で培った知見を活かし2段階で空気を取り込む技術などを導入。安定的な燃焼に加え、窒素酸化物の発生を環境基準の範囲内に抑えることを可能にした。

現在は一般家庭の消費電力で約600世帯分の電力に相当する発電が可能で、今後はガスタービンを大型化し2030年までに発電所で運用できるサイズを目指している。

――アンモニア100%発電を商用ベースで実現させるための最大の課題は何か?

IHI 井手博社長:
まず1つはコストです。アンモニアそのものがまだまだ高いので、これを相当程度下げなければいけないというのと、CO2を出さないで作ること。アンモニアについては相当この10年間で検討し、研究してきたので、本当にこれを商用的にしかも環境的にきちんと成り立たせるにはコストとCO2を出さない水素アンモニアというところだと思います。

今はアンモニアを作る時にCO2を出してしまっていますから、これをいかに今の再生エネルギーを使って水電解した水素でアンモニア合成するかということです。新しい水素合成の技術、アンモニア合成の技術は開発を進めています。