「鬼のように苦手」なこと

石井:
今回を通してですけども、次世代の選手たちに言葉で伝える、言葉で何かこう、選手の変化を見い出すとか指導するっていうことに関してはどうですか?

錦織:
僕は、鬼のように苦手ですね。コミュニケーション能力がすごい衰えているので、だからまあ、自分の特訓だと思ってこういう場面ではやってはいますね。言葉で伝えるってなかなか…まったく言葉にアウトプットできないんですよ。自分の言葉とか、打ち方とか。それはまだ模索中です。頑張っています。

石井:ジュニアの選手に聞いたら擬音が多いって。

錦織:笑。ダメですね。

石井:それって、ある意味野球で言えば、長嶋茂雄さんの天才の伝え方というか。

錦織:
なかなか自分の感覚を伝えるのは難しいなとことごとく思いますね。特に子どもたちに伝えるときに、同じプロに教えるのは、まだ楽なんですよ。なんとなくあっちもわかってくれるから、僕の感覚を。でもジュニアの子たちには、しっかり1から10まで説明してあげないといけないので、僕の擬音を汲み取ってもらうしか今のところないのかなと。笑

石井:
錦織選手もジュニアの選手たちのプレーを見て、ここはもうちょっと変えたいなってときは、選手の方を見ながら、素振りをしながら、動きもしていましたよね?

錦織:
変えたい気持ちと、でもこの打ち方でもなんとかいけるよなっていう、やっぱりテニスって打ち方がみんな違うので、メドベージェフ(ロシア)も結構変な打ち方するけど、あの位置まで行ってるし。もちろん綺麗な打ち方をする選手の方が多いですけど、変な打ち方でも意外とトップまでいけているので、これが必ず良いという打ち方はない気がするんですよね。もちろん、最低限の肘の使い方とか、体幹の使い方とかはありますけど、そこがやっぱり難しいですよね。直したいけど、「彼に合っているのは、もしかしたらこの打ち方かもしれない」というところが、なかなかパッと判断が難しいのがテニスかなと思います。

石井:
やっぱりご自身の経験を通して、錦織選手もフォアハンドのテイクバックのとき、特徴的な。

錦織:
そうですね。これもセオリー的にはあんまり良くはないですね。

石井:
これで貫いたっていう部分に関しては、自分の経験を通して、個性だったりとか、これでも伸びてく、やっぱりそういうのがあるっていうことなんですよね?

錦織:
そうですね。テニスは個性を伸ばすのが、一番の近道かなと思います。僕も、ここの師匠でもあるニック・ボロテリーさん(現IMGアカデミーを設立した世界的な名コーチ)に100回くらい「これはちゃんと先に伸ばすんだよ」って、毎回コーチ受ける度に言われるんですよ。でもそれを僕は「わかったよ」って言いながら、裏では「いや、俺はこっちだ」って変えなかったんで。自分の思いは結構頑固なところがあるので「絶対これは僕に合ってる」って変えなかったですけど、他のサーブとか、明らかに違うところは結構いろいろ直してます。

石井:
それぞれの個性っていうことに関しては、結構日本の指導者の皆さんだとか「絶対変えろ」っていう…どちらかというとこっちの人は、伸ばしてくれる、そういう文化の違いってありますかね?

錦織:
あるのかもしれないですね。日本はどうかあまり分からないですけど、アメリカの感じだと長所を伸ばすがまずは先決。もちろん、トップ10にいくには、全てがないといけないので、もちろん短所はあってはいけないし、バックが苦手とか、フォアが打てないとかはトップ10にいくには、必ず直さないといけないけど、小さい頃は長所を伸ばしていったほうが良いのかなと思います。