専門家に聞くLGBT法案の問題点「後退している」理由とは?

【解説】
5月に与党が提出した法案は、「2年前に与野党の超党派が合意したもの」と異なるんです。
もともとは、自己の属する性別についての認識を「性自認」という言葉を採用、性的指向などを理由とする「差別は許されない」といった文言でした。

ただ与党は、自民党内の保守派に配慮し法案を修正。「性自認」は「性同一性」に変更され、「差別は許されない」は「不当な差別はあってはならない」という表現に修正されたのです。
自民党の保守派の発言の中では、例えば「性自認」という言葉にしてしまうと、女子トイレに男性が入ってしまったりという恐れがあるのではないかという指摘もありました。
長年、LGBTの当事者らと向き合ってきた教授からは、より当事者の声を踏まえた法案が必要だとし、与党の修正案では不十分だと指摘しています。

(岡山大学大学院 中塚幹也教授)
「今回の修正案を見てみると、そのあたりもかなり後退しているようには見えます」

そう指摘するのは、岡山大学大学院の中塚幹也教授です。「性自認」を「性同一性」などの表現に変更された与党の修正案。いったい、どのような点で後退しているのでしょうか?

「性自認」も「性同一性」も、英語に翻訳するとどちらも「ジェンダーアイデンティティ」です。性自認とは、「自身の性をどのように認識しているか」を示す自己認識を表します。
一方で「性同一性」という言葉は性別と性自認が一致しないトランスジェンダーを障害とみる用語、「性同一性障害」を連想させます。いまは障害を意味しない「性別不合」などと言い換えられている言葉をあえて使う必要があるのかと指摘されているのです。
(岡山大学大学院 中塚幹也教授)
「わざわざ『性同一性』という言葉に変えて、意味をわざと違うようなものとして、例えば医師の診断を受けてないような人たちは、そういうようなこの法律で守られるようなものではないんだみたいにも読み取れるような形ですね。俗に言う骨抜きのような状態になってしまってるっていうところはちょっと懸念されるところです」
また中塚教授は、与党の修正法案で「LGBT教育に関する環境整備の独立項目が削除されたこと」についても、懸念を示しました。

(岡山大学大学院 中塚幹也教授)
「学校の中もそうですし、それから職場の中でもそういうハラスメント、SOGIハラと言うんですけど、そういうものがあるということは、われわれの所に来られている直接も聞きますし、SNS上でも、胸が痛くなるような言葉もすごく発せられている」