持続可能な開発目標、SDGsの流れが生まれるずっと前から自然やサステナビリティを大切にしてきた企業が滋賀県にある。創業151年の老舗のお菓子メーカー、「たねや」グループだ。たねやが手がけるお菓子のテーマパークには年間300万人を超える人が訪れている。その人気の秘密に迫る。

「原風景を取り戻す」自然と菓子のテーマパーク。商いは時代に合わせて変化する

滋賀県近江八幡市。甲子園球場約3個分の広大な敷地に、豊かな緑が広がっている。和菓子の老舗、たねやと洋菓子のクラブハリエの旗艦店「ラ コリーナ近江八幡」だ。2015年にオープンすると、入場料無料ということもあり、2022年は年間321万人が押し寄せた。

滋賀県では誰もが知るスイーツの聖地ラ コリーナを開いたのが、たねやグループの4代目山本昌仁氏だ。

たねやグループ 山本昌仁CEO:
もう一度原風景を取り戻したい。原風景を取り戻すということがキーワードで始まったのです。昔のリバイバルでは駄目だと、現代に生きる我々がこの近江八幡を表現するとこうなるんですよと。昔からある山を借景にしながら建物を作っていきました。お店もそうですが、全部バックに山があるということで、どんな建物にしていけばいいか、どんな向きにしていけばいいのかも、全部この山から学びました。

ラ コリーナの中央にあるのは田んぼだ。従業員たちの手で田植えから稲刈りまで行い、お菓子作りにおける農業の大切さを伝えている。田んぼを囲むように、ショップやカフェ、本社などが点在している。

――2022年はコロナ禍にもかかわらず320万人の集客は滋賀県随一だった。何が顧客を引き付けていると分析しているか。

たねやグループ 山本昌仁CEO:
お客さんが入った瞬間に「うわーっ」と言われるんです。「うわーっ」という回数が多ければ多いほど「次にまた来たいな」と。「私だけのラ コリーナを見つけたい」と言って来ていただけるのが、お客様がお客様を呼んできていただける空間になっているのかなと。私だけのラ コリーナですから、私たちは全部答えを出さないんです。写真で撮るとか、いろいろなものを見せてしまうのではなくて、来ていただいて自分だけのラ コリーナを見つけてくださいと。

――ここはお店なのか、本社なのか。それともテーマパークなのか。どう規定すればいいのか。

たねやグループ 山本昌仁CEO:
自然なんでしょうね。自然を見てもらってついでにお店が周りにあるという。

自然に学ぶラ コリーナに今年1月、新たな施設がオープンした。バームクーヘンの製造工場バームファクトリーだ。バームクーヘンの製造工程を間近で見学することができる。木の年輪のように、一層一層手作業で焼いていく。ミニサイズのバームクーヘンを1日1,000本、個数にして2万個製造。全国のクラブハリエに出荷している。

――この製造過程を見せる、あるいはラ コリーナという場所を見てもらうことが、たねやのストーリーを皆さんに知ってもらうということなのか。

たねやグループ 山本昌仁CEO:
本当にそうです。どういう考えでやっているのかなというのを文章で見るのではなくて、来ていただいて体で体験してもらうというのが、たねやの特長ですね。

――151年の歴史がある。何を守って、何を変えるのか、革新と伝統のバランスは?

たねやグループ 山本昌仁CEO:
そもそも私どもは木材から始めて種を売って和菓子屋になりました。精神、考え方をしっかり残しつつ、その時その時のいいものにどんどん移り変わっていったというのが現在のたねや。私自身は相も変わらず、この先もお菓子屋を続けていくであろうと思いますが、私達の今持っている精神は次の代へと引き継いでいきたいと思います。昔は砂糖が本当に重宝されていた時代から、今砂糖は悪のように言われます。商いのやり方は時代に合わせて変化していくものだと私は思います。