自身の感覚と違っても自己新が出たことをどう分析するか

助走の良し悪しは助走の最大スピードだけで判断すべきではない。現在の秦のように助走中の余裕度が大きければ、踏み切りをコントロールしやすくなる。踏み切りに入っていく最後数歩の減速が小さいことも、記録決定の重要な因子である。踏み切りのテクニックも記録に大きく影響するのだ。


その部分でも秦は、今年の室内競技会で成長を見せていた。以前よりも大きなストライドで踏み切りに入っていく助走に変更したのだ。2月12日にカザフスタン・アスタナで行われたアジア室内選手権に6m64で優勝したが、帰国後の取材で次のように話していた。

「昨年までは踏み切り前で詰まる(小さな歩幅で脚の回転を速くしたり、窮屈そうな脚さばきになったりする)助走をしていました。最後も(感覚的に)加速しながら、 "詰まらず"に大きな走りで踏み切りに移行することが理想ですが、アジア室内選手権はそこに近づいたと思います」

だが静岡国際では、踏み切りに入る部分に不満を感じていた。
「6m75の跳躍で何が起きていたか、(細かい部分は)わからないのですが、感覚的には良くありませんでした。(踏み切って)コロコロ転がってしまったような感覚で、前には抜けたのですが、持ち前の高く上がる跳躍にはなっていませんでしたね。滞空時間とか、そんなになかった気がします」

自身のイメージした感覚と違っていると感じた秦だが、最終的には「動画を見て判断する」とした。昨シーズン後に変更した踏み切りに入る部分も、当初は失敗跳躍だと自身は感じていた。だが陸連科学委員会から良い跳躍だったのではないか、という分析が提示されて変更に踏み切った。

静岡国際の跳躍を「前に抜ける」と振り返った。これは走幅跳選手がよく使う言葉で、踏み切って前に跳び出す勢いが強い跳躍のことを指す。悪い跳躍と決めつける感覚ではないのである。秦のやろうとした感覚とは違っていても、動画を分析して良い跳躍だったと結論づけられる可能性はある。

反対に、秦の感覚通りに不十分な跳躍で、改善点が見つかるかもしれない。どちらの結論になっても、やるべきことが明確になるはずだ。

自身のやりたかった感覚とは違っても、新たな発見があれば前に進むきっかけになる。現在の秦はフィジカル面の成長で、助走に余裕が生じているタイミングでもある。秦がどういう結論を出し、次の試合に臨むのか。次戦のゴールデングランプリに注目だ。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)