もうひとつの「ジュラシック・パーク」と似た名前の世界遺産は、イギリスで「ジュラシック・コースト」と呼ばれる海岸です。

ジュラシック・コースト 白亜の断崖
ジュラシック・コースト 円形の湾

南部のイギリス海峡に面して155キロ続き、世界遺産としての正式名称は「ドーセットと東デヴォンの海岸」。海に向かってそそりたつ真っ白な断崖や、自然にできた円形の湾など景観の見どころが多いところですが、名前通りにジュラ紀など太古の生物の化石が大量に発見されています。海岸にはおよそ2億年前から6500万年前の地層がむきだしになっていて、ちょっと歩くと化石がゴロゴロ見つかります。

番組で撮影したのは、とても珍しい黄金色のアンモナイトの化石。発掘されたときは普通の石の色なのですが、表面を研磨すると黄金色に輝き始めます。アンモナイトの殻に含まれていた石灰分が、化学変化によって黄鉄鉱という鉱物に変わったからと考えられています。 

ジュラシック・コーストで発見された黄金色のアンモナイト

さらにジュラシック・コーストで見つかった化石の中で最も貴重なのが、海で暮らした魚竜イクチオサウルスの全身骨格。これほど完全な形で残るものは世界でも珍しく、19世紀初めに発見されました。見つけたのはメアリー・アニングという当時12歳の少女で、ジュラシック・コーストで化石を採って観光客に売っていた父親から化石発掘のノウハウを教わったといいます。

とにかく化石を見つけることに関しては天才的な能力をもっていた女性で、その後、首長竜プレシオサウルスの骨格化石も初めて発見するなど、次々と重要な化石を発掘しました。当時のイギリスでは労働者階級の女性が学者として認められることは難しかったのですが、今では偉大な古生物学者のひとりとされ、彼女の発見したイクチオサウルスはロンドンの自然史博物館に展示されています。

ロンドン自然史博物館

世界遺産に選ばれるためにはいくつかの基準を満たす必要があるのですが、そのひとつに「生命進化の記録」というのがあります。「ダイナソー・パーク」も「ジュラシック・コースト」も息を呑むような景観ですが、その景観によって世界遺産になったのではなく、太古の生命の進化の記録、つまり重要な化石が発見された場所として世界遺産になったのです。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太