■水際緩和を後押しした菅前総理のアドバイス


4月22日、岸田総理が訪ねたのは国会内の菅前総理の議員事務所だった。政府与党が編成することを決めた補正予算案や、5月の外交日程などについて意見交換したとされている。
しかし、実はこの会談の中で菅氏からはあるアドバイスが伝えられていた。

議員会館から出る菅前総理


菅前総理
「インバウンドをやるべきです」

訪日外国人、特に外国人観光客の受け入れを再開すべきと主張したのだ。
インバウンドというのは菅氏が官房長官時代からの肝いり政策だが、円安の状況下というのは訪日外国人にとってみれば、物価の割安感が出て大きな魅力となる。このため、大きな経済効果をもたらす可能性がある、菅氏はそう読んでいた。

“海外から日本に来たいという需要がある以上、妨げるべきではない”などの菅氏の主張に、岸田氏は耳を傾けていたという。

その後、岸田氏は東南アジア、ヨーロッパをめぐる外遊に出発。その訪問先でも経済界などから次々に日本の“厳しすぎる”水際対策について不満が寄せられたという。
その結果、ロンドンの演説では現在、1日あたり1万人を上限とする水際措置をさらに緩和する方針を明らかにしたのだ。

岸田総理
「6月には他のG7諸国並みに、水際対策を更に緩和していきます」

政府は、大型連休後の感染状況を見極めたうえで6月には上限を2万人まで増やす方針だ。また、外国人観光客についても6月をメドに受け入れを再開することにしている。

岸田総理は周囲に「状況が変わった」と説明。外国人観光客についても「来たがっている人を受け入れない理由はない」と菅氏と同様の説明をしている。

確かに、JNNの最新の世論調査(5月7日、8日実施)では、「水際対策を緩和すべき」と答えた人が48%と「緩和すべきではない」の38%を上回るなど、実際に状況は変わりつつある。

JNNの最新の世論調査

■それでも鈍いマーケットの反応


岸田政権が掲げる「新しい資本主義」は「わかりにくい」「具体像がつかめない」という批判がつきまとっていた。今回の演説はそうした声を意識したものだったが、それでもマーケットの反応は鈍かった。演説翌日の6日以降、日経平均株価は下落傾向が続き、12日の終値は2万5748円72銭と、1000円以上下がっている。これは主にニューヨークなど海外市場の株価下落の影響とみられるが、少なくとも演説内容が好材料視されていないとも言える。

「総理官邸の戦略ミスだ」「なぜもっと広報しなかったのか」

与党内からこんな嘆きの声も聞こえる中、岸田総理は結果でマーケットを見返すことはできるだろうか。