統一地方選挙まっさかり。やにわに、衆院6月解散・総選挙の話がくすぶりだし、事態は緊迫しています。岸田総理は今国会会期末に解散総選挙に踏み切るのか、見送るのか。数々の修羅場をくぐってきた政治ジャーナリストの後藤謙次氏は「ウクライナ電撃訪問」、そしてそれに先立つ「一連の行動」、そこには一本の筋道が見えるとズバリ読み解きます。(聞き手:TBSテレビ政治担当解説委員 石塚博久)

安倍氏「回顧録」あふれ出る“むきだしの感情”
ーー安倍晋三元総理の回顧録について、どういった感想をお持ちですか?
ジャーナリスト 後藤謙次氏:
“回顧録”というよりは、直近の語録という感じがします。ですから非常にその意味では感情がストレートに出ている。安倍さんの政治の特徴は、やはり敵を作りながら敵との対立状況を劇場的に見せていく。これは小泉さん譲りだと思うのですが、その手法が随所に出てますし、その敵がずっと読んでいくと明確になってくるんですね。例えば旧民主党政権についてはとことん追及し続ける。あるいは、官僚機構で言えば財務省批判が随所に出てくる。
そういう意味でむき出しの感情が出ているという点では面白いのですが、ただ1点残念なことは「安倍さんができなかったこと」について「なぜできなかった?」っていう部分がないんですね。例えば、安倍さんが「それによって俺は政権ができたんだ」と言ってた拉致問題。これについては結局トランプ大統領の助力を得ながらやろうとしたけどそれもできずに。結局自らこじ開けて。なぜできなかったっていう失敗談を語ってもらうと、それはある点で後世の参考になるなと。成功体験が非常に多いんで、そこはやや物足りないところがありますね。
政治家・安倍晋三の根底に流れる「敵味方の峻別」
ーー財務省には辛辣ですよね。消費税8%から10%に引き上げのとき「谷垣幹事長を使って私の批判をして政権転覆を狙った」と。だんだん途中から(安倍氏の)思い込みになっていってるようなんですが。
後藤氏:
それもあると思いますね。今、安倍さんを支持していた人たちは「消費税を2度上げた総理大臣なんかいないんだ」と非常に評価をしてるんですが、実はあれは法律で早々と決まってたものを安倍さんが延期して、やむを得ず引き上げみたいな形になってね。あれはやっぱり法律通りやってたら、もっと早くこの状況から脱出できて財政もきちっと再建できたって言う識者は結構いるんですよね。そこを安倍さんが「(消費増税を)俺が何とか延ばしたから日本経済は立ち直った」ってずっとおっしゃってましたけども、今この状況でですね、円安になって、どんどん日本そのものの価値が低下している。そして日本銀行を巻き込んだ、この大規模金融緩和が様々言われてる中で「やはりそれはちょっと違うんじゃないですか?もっと客観的に評価しましょうよ」っていう時代に入ってきたんだと思いますね。
ーー(回顧録から)疑心暗鬼に入っていく過程を見ると、やっぱり総理の孤独というか、そういう中で思い詰めていくっていうこともあるのかという気もします。
後藤氏:
私が個人的に感じたのは、安倍さんが秘書官で永田町に来られたときって、竹下派
経世会の全盛時代だったんですね。お父さんの安倍晋太郎さんが絶えず竹下派の圧力の中で、安倍さんはそういうスタートしてるんで。今、竹下派の流れは平成研究会ですよね。ところが安倍さんは亡くなる直前まで、お会いすると「後藤さんは経世会だから」とずっと言い続けるわけですね。もう本当に骨の髄まで染み込んでました。というところでは思い込みも非常に強いし「敵味方の峻別」っていうところが安倍さんの政治家としての根底に流れている、安倍政治を形づくる大きな要素だったんじゃないでしょうか。