山の頂きを望む慰霊碑。
月に2度、この場所を訪れる遺族がいます。


愛知県一宮市の所清和(ところ・きよかず)さんです。


噴火当日、息子の祐樹(ゆうき)さんは、婚約者の丹羽由紀(にわ・ゆき)さんと登山に向かいました。

噴火から5日目、所さんは祐樹さんの遺体と対面します。


あれから9年目の春。

御嶽のふもとは、まもなく芽吹きの時を迎えます。


王滝にやってきた所さんが、必ず訪ねる人がいます。


噴火のあと、関係者以外で最初に会った村人が佐口さんでした。

憔悴しきった所さんに佐口さんが、かけたことばがあります。


「26才の子ども亡くせば悲しい。悲しいことは分かるけど自分が病気になってしまえば何にもならないから、所さんちょっと心(気持ち)を入れ替えようと。祐樹くんの3倍生きる気持ちになろうよって」

ふるさとで起きた未曽有の災害。

遺族の中には、当時の防災体制への疑問や、地元に対して複雑な思いを持つ人も少なくありませんでした。


(噴火から2か月後の佐口さん)「ただ胸が痛むだけ…ずうっと…」


噴火以降、佐口さんは、犠牲者を思い、祈りを捧げ続けてきました。


山のふもとに咲くヒマワリ。


亡くなった2人の供養になればと、所さんが今も少しずつ増やしています。

その思いに寄り添ったのも、佐口さんたち村人です。


今月、王滝村を訪れた所さん家族を近くのレストランに招待した佐口さん。

所さんは、ひまわりをあしらった手作りのリースをプレゼントしました。


(所さん)「みそ汁もすごくおいしくて具だくさんで。余ったら持っていけって、わざわざタッパに入れてくれて持って帰ったり…。すごく優しいっていうかありがたいっていうか」


所さんは、佐口さんの長寿を祝う誕生日会も始めました。

今では、まるで家族のような大切な存在です。


王滝の地に残る人のぬくもり。

佐口さんとの再会を約束し、所さんは村を離れました。