スピードとパワーに技術が追いつけば・・・
青木の特徴は、本人のコメントにもあった“スピードとパワー”である。そもそも青木は、高校1年時にインターハイの100mを制して注目された選手。昨年は日本選手権100mで4位に入り、世界陸上オレゴンでは4×100mリレーの1走を任された。
ハードル選手が4×100mリレーのナショナル・チームに入る。海外でも日本でも例はあるが、多くはない。青木は100mの記録を世界陸上から帰国後に、11秒48まで縮めている。日本人ハードル選手では歴代最速タイムである。
パワーについては陸連の女子短距離合宿の測定でも、高い数値を出している。
ただ「その2つが高まったときに技術面で対応できず、ハードルにぶつけてしまう」ことがあった。福部と寺田から受けた影響だけでなく、自身の課題が技術面にあることも青木は認識していた。
今年はテクニック面の進化がクローズアップされているが、「スプリント練習も減ってはいません。100mも去年と同じくらいか、それよりも速く走りたい。スプリントをやりつつ技術をつけていきます」と、成長の両輪にするつもりだ。両者が噛み合えば日本記録の奪回も現実的な目標となる。
先ほど世界ランキングでの世界陸上出場の可能性に触れたが、青木自身は「標準記録を切ってブダペストのスタートラインに立ちたい」と考えている。
ブダペストの目標は「12秒台で2本」
だが今年のブダペストでの目標となると、「予選で12秒台、準決勝でも12秒台」とコメントしている。“12秒台”には12秒7台も含まれるのだが、12秒9台も含む。控えめな目標設定という見方もできる。
青木は昨年のオレゴンでは、隣の選手と接触したこともあり予選は13秒12で6組5着だった。各組3着までは自動的に準決勝に進出するが、4着以下のタイム順でプラス6人まで拾われるシステム。青木はプラスの5番目タイで準決勝に進み、準決勝は2組6位でタイムは13秒04だった。
福部が昨年準決勝で日本記録(12秒73)を出しているが、青木もブダペストでは12秒7台の自己新を準決勝で出したいのではないか。
その質問に青木は首を振る。
「私は1年1年、少しずつ強くなっている選手です。去年の世界陸上が13秒(0~1)台で2本なら、今年は12秒台を2本とも出したい。(決勝進出に必要となる)12秒5とかは現実的なタイムではありません。準決勝のあの緊張感の中で12秒台が出せたなら、少しは成長したことになります」
欲張ると踏み切り位置がハードルに近くなるなど、不安定な部分が出てしまう可能性がある。青木の控えめな目標設定は、その点も考慮してのことかもしれない。
だがスピードとパワーを生かせる技術が身に付き、それが世界陸上の準決勝というアドレナリンが出るレースで発揮されれば、驚くような記録で走る可能性も否定できない。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)