青木益未(28、七十七銀行)が自己の日本記録をまたもや更新した。2月12日にカザフスタン・アスタナで行われたアジア室内選手権。女子60mハードルの青木は8秒01と、2位のジョシ・ヤラジ(23、インド)に0.12秒、約1mの差をつけて快勝した。青木は20年2月に8秒11と室内日本記録を21年ぶりに更新すると、21年に8秒06、8秒05と自身の記録を更新。4回目の今回は初の海外レースでの室内日本新となった。屋外の100mハードルでは青木が21年に12秒87の日本タイ、昨年4月に12秒86の日本新をマークしたが、7月の世界陸上オレゴンで福部真子(27、日本建設工業)が、12秒73と日本記録を大幅に更新した。青木も今回の室内日本新で、12秒78の世界陸上ブダペスト標準記録突破に大きく前進した。
高く自己評価できたアジア室内選手権
7秒台を惜しいところで逃したが、青木は「100点満点でした」と最高点を付けた。確実に成長していることが確認できたからだ。
予選の失敗(8秒51で予選1組5位)を、決勝では立て直すことができたことも自己評価を高めた。
「予選は隣のインド選手が(ピストル音より早く)動いたことに気を取られてしまいましたね。中途半端にスタートしてしまい、ハードル前でテンポアップできませんでした。決勝は予選よりも、頭を上げるタイミングを少しだけ早くして、ハードルの前でテンポアップして1台目に入ることができました」
1台目をトップで入ると、2台目以降も他を寄せ付けなかった。2位のヤラジは屋外の100mハードルでは12秒82と、青木を上回る記録を持つ。
「緊張はすごくしましたが、スタートからゴールまで良いレースができたと思います。アジア室内選手権にはポイントを取りに行ったのですが、順位、記録とも目標を達成できました」
世界陸上に出場するには標準記録(屋外の100mハードルで12秒78)を破るか、世界ランキングで上位に入る必要がある。室内の60mハードルは世界ランキングのポイントが、屋外の100mハードルに加算される。そしてアジア室内選手権は順位得点が高く設定されている大会で、日本選手権室内の優勝が40点なのに対し、アジア室内優勝は140点である。
今回の結果で青木は、世界陸連が集計している“Road to Budapest 23”の順位が22位に上がった。標準記録を破った選手が現在16人。その16人を除いた選手中、青木はポイントで6番目ということになる。
女子100mハードルの世界陸上出場枠は40人。ランキングは変動するので油断はできないが、青木は代表入り圏内にいる。
初めて行ったハードルドリル
昨年の世界陸上オレゴンの準決勝で、12秒73の日本記録をマークした福部がすでに標準記録を突破済み。その福部と青木、前日本記録(12秒87)保持者の寺田明日香(33、ジャパンクリエイト)の3人が、19年以降に12秒台を出している。女子100mハードルは種目として、過去最高の盛り上がりを見せているのだ。
その一角を占めるが、青木は他の2人に比べ「安定感がない」ことを課題としてきた。昨年も4月9日に12秒86の日本新をマークしたが、同29日の織田記念は外国人選手と福部に敗れて3位。5月のゴールデングランプリはハードルに接触して9位と敗れた。
安定感がない要因の1つに「2人に比べて踏み切り位置が近い」ことがある。
「特に1台目は、2人はここで踏み切ればハードルに当たらない、というポイントを瞬時に判断できますが、私にはその距離感がないんです。だからハードルにぶつけやすい。しかし私が2人の真似をしようとしたら、思い切りがなくなってしまうと思うんです。そこは個性だと思いますね」
しかし2人の取り組みを参考に、これまでは行っていなかったハードルドリルを、昨シーズン終了後に行うようになった。
「スプリント向上のための股関節ドリルなどは行っていましたが、それまではパワーとスピードをつけることを優先していました。しかし2人が私と違って、ハードル間の走りがコンパクトでキレがあるのは、ハードル用のドリルに取り組んでいるからでしょう。昨シーズン後に私も取り入れて、その成果が日本選手権室内(2月5日大阪城ホール)とアジア室内で現れました。ハードル間でしっかり、脚を回せるようになり、全体の流れが良くなっています」
コンパクトな動きをするために、青木は2つの部分を意識していた。1つはハードル上で右腕を後ろに引いたときのひじの角度。もう1つはリード脚である右脚のヒザの角度である。
「動画でチェックするとひじは思った角度に近いのですが、ヒザはもう少し折りたたんで動かしたいですね。ただ、感覚は悪くないので、あまり気にしすぎずに2月、3月と練習していきます」
昨シーズンまでも毎年何らかの進化を遂げてきた青木が、今年もまた進化している。