アマゾン先住民の子どもたちの身体に異変が起きている。脳の異常、神経障害などの要因とみられているのは「水銀」。彼らの毛髪から高濃度の水銀が検出されていた。専門家からは日本の水俣病との類似性も指摘される。現地で何が起きているのか?
萩原 豊(解説・専門記者室長)(全2回のうち1回目/動画はこちら)

「一人で食べることもできない」…8歳の少年に何が?

南米アマゾンに流れるタパジョス川。川幅が広く、対岸が遥か遠くに見える。先住民ムンドゥルク族の村を目指して小型ボートで遡っていた。鏡面のように穏やかなところもあれば、急な流れがあるところもある。
今回訪ねる村は、ブラジル北西部の都市、イタイトゥバ郊外の小さな港から小型ボートで5時間以上、上流に移動した場所に位置する。

ムンドゥルク族の一部が住む、ポショノイブ村に到着した。小雨のなか川岸から、しばらく歩くと、いくつかの屋根が見えてきた。24家族、95人の小さな集落だ。少し坂をあがったところに、その少年の自宅があった。

8歳のアレックス・カロくんが母に抱かれて現れた。父のアオド・カロさんが息子の状態を説明してくれた。

「物をつかむことができず、一人で食べることもできません。いろいろなことができません。座ることもできません。少しだけ話すことはできます。これが彼の状態です。いまも座ることができません。4ヶ月前に8歳になりましたが。脚が硬直し、歩くことも、ひとりで起き上がることもできません」

出生時に異常はなかったものの、年齢とともに障がいが明らかになってきたという。手足は明らかに細い。力が入らず、思うように動かない様子だった。

両親は、5年ほど前から、アレックスくんを都市の病院に何度か連れていき、診察を受けたという。

「一度も確定した診断結果はもらっていません。MRI検査もしましたが、私たちがわかるような結果は受け取っていません。アレックスの問題がどこにあるのか、という疑問を持っています。今まで何も答えが出ていません」

アレックスくんは、ハンモックに寝かされると、自ら起き上がれない。年を重ねるとともに徐々に体重が増えてきて、母ひとりの力では抱き上げられなくなってきた。姉との会話では、片言しか発していない。両親は息子の将来をひどく心配していた。

アレックスくん家族が住む集落の、ヴァルデマール・ポショ村長が説明した。

「障がいをともなって生まれてくる子どもがいます。私の孫にも障がいがありました。だから、とても心配しています。3人の母親から障害のある子どもが生まれました。こういう子どもが突然生まれ、しかし治療法はありません」

アレックスくんの症状の要因は何か?
実は、この集落だけでなく、こうした症状を示す子どもが、アマゾンの先住民地域で数多く確認されているという。