「やってみなはれ」の精神は、失敗から学んで次に生かす

サントリーはさらなる品質向上に向けて山崎蒸溜所と白州蒸溜所の改修に約100億円を投資すると発表している。今年はサントリーがビール事業に参入してから60周年でもある。この節目の年を鳥井社長は勝負の年と位置づける。
――ウイスキーの時は日本に新しい洋酒文化をというのが旗印だったと思うが、ビールの時は巨大な三社寡占市場の中に新しいいぶきをというのがあったのか。
サントリー株式会社 鳥井信宏社長:
ビールに参入した時は、どちらかというとドイツの苦いビールではなくてデンマークのスッキリしたビールで参入しました。その後の生ビール発売もちょっといつも勇みすぎるというか早すぎるような感じがするのですが、気がついたら今、全部非比熱処理生ビールでやっています。
――それは新しい需要を作るということか。
サントリー株式会社 鳥井信宏社長:
2023年は酒税改正があるので、そういう変化がある時は市場も大きく動きますので、それがチャンスでもありリスクでもあると思いますが、しっかりとそういう時に伸ばしていかなければいけないなと思います。20数年ビール総市場はダウントレンドですから、あっちが勝ったこっちが勝ったと言っている場合ではなくて、ビール市場全体がみんなで盛り上がるようなことをしていかなければならない。
――世の中が変わっていくと業態を変えたり多角化を進めていったりという会社はたくさんある。企業が永続していくための祖業の意味はどう考えているか。
サントリー株式会社 鳥井信宏社長:
最初作ったウイスキーが売れなかった時に、もう1回いろいろ工夫をして顧客の味覚に合うものを作ったというこの根っこのところですね、これがすごく大事だと思っています。私は酒をやる前に飲料もやりましたが、飲料もやはりおいしいものは売れるのです。おいしくないものが売れないとはなかなか言いづらいのですが、おいしいものが売れるのです。品質に対する思いというのはすごく大事だと思います。
――祖業のDNAを伝える上で、創業家としてあるいは創業家の一員としての役割はあると感じているか。
サントリー株式会社 鳥井信宏社長:
なかなか難しい質問なのですが、ただウイスキーは時間としては長いスパンの商売になりますから、長い目で物事を考えてやらなければいけないという部分では、何らかの価値はあるのかなという気がします。とんでもない資本主義になっているような国の人の方がファミリーがやるということに対してむしろすごく安心感を持っているような感じがします。
――世間は、鳥井氏はいつかはサントリーのトップになるだろうと見ているわけだが、その時に向けて自分として大事にしていきたいと思っていることは何か。
サントリー株式会社 鳥井信宏社長:
今まで通り軸をぶらさずに上に媚びずにやっていくことですかね。
――サントリーの創業の精神としてよく言われる「やってみなはれ」という言葉はどう理解しているか。
サントリー株式会社 鳥井信宏社長:
あまりプレッシャーに感じないでとにかく挑戦してみようよという部分だと思います。失敗はします。その失敗から何かを学ぼうよというのがすごく大事だと思っています。失敗して終わりだと「やってみなはれ」になっていなくて、失敗したことからこれがあかんかった、これが良かったということを学んで次に生かすということをやってみるべきだと思います。
――他に何かもっと自分で大事にしている言葉はあるか。
サントリー株式会社 鳥井信宏社長:
大事にしている考えとしては、創業者からずっと受け継がれている「利益三分主義」と言って、社会にも利益を還元しようと。会社に3分の1、ステークホルダー(顧客・取引先)に3分の1、それから社会に3分の1。難しいSDGsという言葉がありますが、利益三分主義の方が単純な言葉かなと。ちゃんと利益を上げなかったら社会にも還元できない。だからしっかりと利益を上げましょうと社員のみんなが理解してくれていることを信じています。