観光船「KAZU1(カズ・ワン)」は悪天候の中、なぜ船を出したのか?同じ会社が所有する「KAZU3(カズスリー)」の船長の証言と当時の気象データから検証しました。

KAZU3の臨時船長
「(「KAZU1の船長は)まわりの話や天気予報もちゃんと聞いて、途中で折り返すような判断はできなかったのか…」

 行方が分からなくなっている「KAZU1(カズ・ワン)」についてこう話すのは、同じ運航会社が所有する「KAZU3(カズ・スリー)」に臨時の船長として乗船した男性です。

 「KAZU3(カズ・スリー)」は、3日前の23日、「KAZU1(カズ・ワン)」が出航した20分後に、乗客12人を乗せて出航していました。
 知床半島の「カムイワッカの滝」で折り返す70分のコースでした。

KAZU3の臨時船長
「当日は予報が昼前くらいから風と波が出て来る予報になっていまして、出航時の10時とか10時半とかのときは波風はなかった状態です」

 しかし、知床半島の先端まで行き、3時間かけて戻ってくる「KAZU1」のコースでは天候が悪化することは明らかでした。
 23日、観光客が「KAZU1(カズワン)」に乗り込んだ時間は、HBCの情報カメラの記録で「午前9時57分」でした。
 この15分前、斜里町で「波浪注意報」が。7時間前には「強風注意報」が発表されていました。

 ウトロ漁港を出て10分。「KAZU1(カズワン)」とみられる船は、知床岬に向かって海岸線を航行していました。周囲に、船は見当たりません。

地元の漁業者
「朝出港したけど、本当にすぐ帰ってきた。10~11時くらいから風向きが変わって強くなるのは分かっていた」
「ああいうふうな波になったら絶対帰ってくる(午後の時間にここらへんで漁をしていた船は?)いないいない」

 これは「KAZU1(カズワン)」が遭難した23日の、ウトロ近くの海域の波の高さを示したグラフです。
 午前10時ごろの波の高さは30センチほどで、さざ波が立つ程度でした。しかし、午前11時を過ぎると、急激に波が高くなります。
 最初に「浸水」の通報をしてきた午後1時13分ころには2メートル。午後1時18分ころには2.7メートル。
 「船が30度傾斜している」と連絡をしてきた午後2時すぎには、波の高さが3メートルに達していました。

 HBCの情報カメラでも、海は白波が立ち、荒れ模様に。前線が通過した影響で、わずか4時間で天候が急変しました。

ウトロ漁協 深山和彦 組合長
「知床は急に風が下りてきたり、(天候が)変わるのが早い。その辺の判断の仕方が僕たち(漁業者と)違ったのは残念」

 悪天候が予想された中、なぜ「KAZU1」は海に出たのか?

KAZU3の臨時船長
「(出航の判断はどなたがする?)基本的には船長の判断で、運航管理者に決定してもらうのが運営方針だと思うんですが、あの場合ですと船長の独断になりますね」

 こう話すのは、「KAZU1」と同じ運航会社が所有する観光船「KAZU3」で臨時の船長をつとめた男性。
 3日前の朝、「KAZU1」の豊田徳幸(とよだ・のりゆき)船長と天候について話をしたといいます。

KAZU3の臨時船長
「昼前から波が出てきそうだと話したが、(豊田船長から)反応がなかったんですよ。それで、天気予報を確認していないなという雰囲気はありました。単独なので、自分だったらルシャで折り返したかな。ルシャなら行って帰ってきて2時間なので」

 地元の関係者によりますと、観光船の運航会社は、去年、ベテラン従業員を大量に解雇したため、社員の船長は豊田船長ひとりしかいませんでした。
 運航会社の社長は、出航の判断について乗客の家族から問われると、「私はいけると思った」と釈明したということです。
 国土交通省や海上保安庁は、会社や船の安全管理に問題がなかったか調べを進めています。


4月26日(火)「今日ドキッ!」午後6時台