長い期間をかけて「肺がん」などを引き起こすとも

 アスベストは繊維状の天然鉱物のことで、石でできた綿のような見た目から「石綿」とも呼ばれています。安価で耐火性や断熱性が高かったことなどから、1955年ごろから建材として使われ始め、1960年代の高度成長期に広く使用されました。しかし、アスベストを含んだ粉じんを吸い込むと肺の組織に悪影響を及ぼし、15年~40年と長い期間をかけて、肺がんや中皮腫を引き起こすとも言われています。

3回目の調査でアスベストを確認…工事は延期・工事費は増額

 取材班が入手した、下山手住宅4号棟で行われたアスベストの調査結果を見ると、行われた3回の調査で、電気室は入札前の1回目の調査では対象外。落札した施工業者が行った2回目の調査では、電気室の存在を見落として調査は行われず、指摘後に行われた3回目の調査で飛散性が高いアスベストが確認されています。工事は延期され、神戸市は2億円で発注していた施工業者との契約を解除しました。
 3回行われた調査では、複数の場所で“調査によってアスベストがあったりなかったり”と判断が分かれる事態も起きています。神戸市は一度でも「あり」と判断された場所で対策を取ることを決め、最終的に契約額は5億円増の7億円以上に膨らみました。

2023年の法改正まで「アスベスト調査」は無資格でも可能

 そもそもアスベストの調査で業者によって判断が分かれることはあるのでしょうか。建物のアスベスト調査などを年間で150件以上請け負っている会社の調査員に話を聞きました。

 (アスベスト調査員 宮森忠則さん)
 「外壁だったら外壁のなかで大体3か所をとって1つの検体とするんですけれども、見た目で『こことこことここにしましょうか』と(決めるので)、別に(サンプルをとる場所の)決まりはないです。今はサンプリングは誰でもできます」
 宮森さんは専門機関で講習を受けてアスベストを調査するための資格を持っています。しかし、2023年10月の法改正までは資格がなくても基本的には誰でもアスベストの調査はできるといいます。

 (アスベスト調査員 宮森忠則さん)
 「(信頼できるデータを得るには)ちゃんと講習を受けたものがサンプリングして、信頼のおける分析会社に出すしかないんじゃないかなと思いますね」
 今回の神戸市の問題について、アスベストに詳しい東京女子大学の広瀬弘忠名誉教授は、異なる調査結果が出たのであれば検証すべきだと指摘しています。

 (東京女子大学 広瀬弘忠名誉教授)
 「検査結果がお互いに矛盾するような場合にはですね、やはり市としてはきちんとした検証をするべきだと思います。アスベストが『ある』と言ったら『ある』ことにして、それに従って工事をするというのはあまりにも安易すぎるので」