丸山竜也(28、トヨタ自動車)にとって別大マラソンは、トヨタ自動車移籍時に目標とした大会だった。第71回別府大分毎日マラソン(以下別大マラソン)が5日、大分市高崎山・うみたまご前をスタートし、別府市を折り返してジェイリーススタジアム(大分市営陸上競技場)にフィニッシュする42.195kmのコースで行われる。

丸山は昨年9月のベルリンマラソンで2時間07分50秒の自己新をマークし、すでにMGC(今年10月開催のマラソン・グランドチャンピオンシップ。パリ五輪代表3枠のうち2人が決定)出場資格を持つ。今大会では8月の世界陸上ブダペスト大会代表入りを目指し、2時間07分39秒の派遣設定記録突破と、西山雄介(28)に続くトヨタ自動車勢2連勝にチャレンジする。

トヨタ自動車入社時に目標として別大を設定

レース前日(4日)の会見で丸山は「昨年2月にトヨタ自動車に移籍し、最初にこの別大を目標にしようと話し合いました。1年間準備し、目指してきた大会です。しっかり勝ちに行きたい」と、今大会に懸ける思いの強さを示した。過去7回のマラソンを走っているが、マラソンが丸山の人生を変えてきた。

■2018.2.25 東京マラソン
118位/2.27.02.(松戸市陸協)
■2019.2.17 京都マラソン
1位/2.16.27.(松戸市陸協)
■2019.3.24 佐倉朝日健康マラソン
1位/2.17.53.(松戸市陸協)
■2020.3.01 東京マラソン
104位/2.23.58.(八千代工業)
■2020.12.20 防府マラソン
1位/2.09.36.(八千代工業)
■2021.2.28 びわ湖マラソン
55位/2.11.10.(八千代工業)
■2022.9.25 ベルリンマラソン
8位/2.07.50.(トヨタ自動車)
※左から日付、大会、順位、タイム、所属(当時)

専修大ではエースだったが、箱根駅伝にはチームが出られず、関東学生連合の一員として17年大会1区を走った。本調子ではなく区間最下位相当に終わり、入社した実業団チームも2か月でやめてしまった。だが地元の千葉に戻り、働きながら18年2月の東京マラソンを走った。準備不足で成績は良くなかったが、市民ランナーとして走っていく気持ちが固まった。1年後に2時間16~17分台で2連勝し、その走りが認められて八千代工業で再び実業団選手として走り始めた。

丸山が注目されたのが、八千代工業で2レース目の防府マラソン優勝だった。38kmでスパートし、フィニッシュまでの4kmで川内優輝(あいおいニッセイ同和損害保険)に50秒もの差をつけた。八千代工業は21年度いっぱいで休部になったが、防府の走りを見ていたトヨタ自動車の佐藤敏信総監督(当時監督)が、高く評価し移籍が決まった。挫折や市民ランナーを経験した丸山が、ニューイヤー駅伝優勝争いの常連実業団チームで競技を続けることになったのだった。

丸山の強さはペースチェンジ能力の高さ

昨年9月のベルリンは「別大に合わせて体を作っていく」ための出場だった。そこである程度の記録を残しておけば、別大と2大会平均タイム(2時間10分00秒以内)でMGC出場資格を得られる。しかし丸山はベルリンで2時間07分50秒で走り、一発でMGC出場資格(2時間08分00秒以内)を得た。それができたのは、後半のペースアップに対応したからだ。中間点通過が1時間3分台前半の予定だったが、ペースメーカーが機能せず1時間04分10秒前後になったという。

「自分は失うものはなかったので、落ち着いて走れたんです。中間点のタイムを見てペースが上がりましたが、自分だけ付きました。一緒に走っている選手が1人だったからだと思いますが、ペースメーカーが自分に合わせて走ってくれた。自分がキツくなったら少しペースを落としてくれたり、下りのところで少し上げてくれたり。25kmまでの予定を30kmまで走ってくれて、30kmまでの10kmを29分台の良いリズムに上げてくれました」

昨年11月の中部実業団対抗駅伝1区では、中盤で一気にギアチェンジをして独走した。防府とベルリンのマラソン2大会でも、そして駅伝でも、ペースチェンジ能力の高さを見せてきた。勝負において、間違いなく優位に働く。

前日会見で別大を選んだ理由を問われ、丸山は「昨年優勝の西山が、チームで同学年なんです。彼のような選手になりたいし、超えたいと思う」と答えた。自身がトヨタ自動車に入社したタイミングで、マラソンで結果を出した西山が絶好の目標になった。マラソン歴は大きく違うが、西山が世界陸上オレゴンでも13位と結果を出した翌月のベルリンで、丸山は西山の別大の記録に3秒と迫った。10000mも、自己記録がともに27分50秒台で変わらない。丸山が西山と同じ優勝と世界陸上代表入りを決めても、少しも不思議ではない(代表決定は全選考競技会終了後)。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は今年のニューイヤー駅伝を走る丸山選手