「自分の脳をちゃんと100%フォーカスさせる」
そして、アジア大会ではこれまでとは違う役割も見えている。
「自分が初めて代表に入った時、清水(邦広)さんや福澤(達哉)さんら先輩方が優しく声をかけてくれた。今度は自分が若い選手たちに、そういう接し方をしていきたい」
選考のプレッシャーは背負うべきもの。でも、それ以外の余計なストレスまで抱える必要はない。
「若い選手たちが持っている力を、自分の声掛けで引き出してあげられるようなサポートをしたい。何より、自分が誰よりも高い向上心を持って練習する背中を見せたい」
そんな大塚が、イタリアで徹底的に向き合ったのが「自分がコントロールできるもの」だった。
「“自分がコートの上で100%コントロールできる部分なんて、結局のところ、自分自身の身体と、自分自身のパフォーマンスでしかない”んですよ。周りのメディアの評価、監督の起用方針、ネットの向こうの相手選手の調子の良し悪し、これらは、僕自身がいくら頭で悩んだところで“1ミリもコントロール(操作)できることじゃない”。自分が100%コントロールできるのは、“今、この瞬間の自分自身の体と、自分自身が放つプレーのクオリティ”だけ。だから自分だけに100%フォーカスしよう、と。“過去の失敗”を考えている時点で、もうその瞬間にメンタル的には世界相手に負け(敗北)。さらに、そのミスの後に頭の中で、『いや、ここでレシーブがまた乱れて、相手にチャンスボールがダイレクトで返っちゃったらどうしよう・・・』など、“まだ起きていない未来の不安”を頭の中で考えている時点でも、僕はもう世界相手に負けだと思っている。過去でも未来でもなく、『今の、この現時点(今の瞬間)に、自分の脳をちゃんと100%フォーカスさせること』。これが、世界の過酷なリーグや代表で生き残るためには、もの凄く大事だということを、イタリアで毎日揉まれる中で、改めてもの凄く強く感じた」

そのための具体的なスイッチがある。
「例えばサーブを1本前に自分のレシーブミスでやられた(エースを取られた)けれど、でも、次の1本で自分が確実に綺麗なレシーブの“リズムを作れるとき”っていうのは、僕の場合だったら、『足の使い方(フットワーク)。サーブが打たれるインパクトの瞬間に、ステップの1歩目を、ちゃんとボールの軌道に対して正しい方向に、1歩目を確実に踏み出すこと』がスイッチ。コートの中で、自分の脳を“その1歩目の足のステップを正しく踏むこと”だけに向ける。その1歩目が綺麗にカチッと踏めたときは、自分の腕の面を意識しなくても、自然とここのレシーブの綺麗なリズムが取れてAパスが返る。スパイクの時も全く一緒で、トスが上がってくる瞬間に『もう、俺はコートの奥へ長く打つ、この打ち方さえしておきさえすれば、それが例えば1本綺麗に決まらなくて相手に拾われたとしても、自分の中で100%納得がいっているから何の問題もない。これをやりさえすれば絶対に大丈夫!』っていう絶対的な約束事を、サーブの時もスパイクの時も、自分の体の中に、あらかじめ1本の線として作ることができた」
過去の失敗、未来の不安、他人との比較。そこから離れ、“今の自分”に戻るための原点。

「僕たちのこの日本代表のレベルって、ここに選ばれている選手はみんな、バレーの技術(スキル)に関しては全員が間違いなく“超一流”の選手ばかり。じゃあ、世界トップを相手に何で勝敗の差がつくかって言ったら、やっぱりコートの上の“ちょっとしたメンタリティの置き方の違い”なんです。そのメンタルの状態によって、せっかく持っている一流のスキルが、本番の試合で100%うまく出る場合と、プレッシャーに潰されて全く出ない場合がある。自分のマインド、考え方ひとつで、コートの上のプレーの質がガラッと劇的に変わることも多い。そこで引っ張っていけるように」
大塚の根本にあるのは、バレーボールが好きだという純粋な気持ちだ。
「『昨日までできなかったこのステップが、今日の練習で新しくできるようになったぞ!』っていう、その日々の小さな“成功体験”の喜びとか、そこに対して、自分が今バレーをやっている本当の“意義”、人生の充実さ、そういう素晴らしい一面からも、日々コートの上で凄く幸せを感じられる。それが僕の中のバレーを続ける一番の“モチベーション”の一つなんです。“自分が日々成長して、バレーを楽しめているか”っていうプロセスも、僕にとっては欠かせないモチベーションの大きな一つ。それが自分の中にある限り、オリンピックという大舞台が終わった後に、人によっては燃え尽き症候群みたいになる時期があるかもしれないですけど、僕は、あの東京五輪の後も、パリ五輪の後も、ずっと『心の中の炎が100%メラメラ燃え続けている感じ』で(笑)」
バレーに対するモチベーションの燃料が、ずっと大塚の底から湧き出ている。
「アジア大会では立場的にも、リーダーシップを発揮しないといけない。その中でメインとしてプレーできる機会、日本代表のユニフォームを着てプレーできることは、僕にとっては大事な機会」
そして、最後に笑う。
「『コートに出たい!』という気持ちは、プレイヤーである以上みんなあると思う。純粋な気持ちが根底にあるから。だからこそ楽しみなんですよ、アジア大会!」
役割を誰よりも理解して徹することができる。
だからこそ、求められるものも高くなる。
リーダーになる。
チームを支える。
そして、自分自身も、長くコートに立つ。
そのすべてを——
大塚達宣は、“楽しみ”と言った。

















