外国人観光客で近年人気の観光エリアとなっている北海道京極町。羊蹄山麓に広がる野菜畑では特定技能の外国人労働者が収穫に汗を流す。その現場から逃走し「暴力を受けた」と訴えるミャンマー人たちがいる。毎日のように繰り返される怒鳴り声、殴打するなどの暴力、胸や尻を触るセクハラ行為、「ミャンマーに帰す」といった脅し。外国人との共生が重要視される現在、耳を疑うような人権侵害行為が農業現場で繰り返されていたという。HBCは避難した直後からミャンマー人たちの取材を続け、その深層を追った。《HBC報道部 山﨑裕侍 熊谷七海》

人権侵害で処分後に別会社設立か…入管の査察と「車内で恐怖に震える女性たち」

親子が実質的に運営する農場(北海道京極町)

この60代の父親と40代の長男、次男が運営する別の法人は技能実習生を受け入れてきたが、2022年3月25日付で入国管理局と厚生労働省から、技能実習計画の認定の取り消しを受けている。詳しい理由は定かではないが「技能実習生の人権を著しく侵害する行為を行った」とされた。取り消しから47日後に新たに設立したのが、今のM社だ。

法人の代表取締役は、町議会議員でもある父親の後援会で代表を務める男性、そして取締役は長男の妻だ。だが、これまでの証言や音声データで明らかになったようにM社を実質的に運営するのは親子だと、札幌地域労組は考えている。

8月19日午前11時、M社に札幌出入国管理局が抜き打ちで立ち入り検査に入った。

M社の畑(ミャンマー人女性提供)

長男や特定技能のミャンマー人から事情聴取をしたという。強い雨が降る中、入管の検査は4~5時間に及んだ。

8月20日午前8時半、女性4人が保護されている札幌の教会。女性たちは白いご飯にミャンマーのご飯のお供のようなスパイスの効いたものを乗せて朝食を食べていた。

挨拶すると、笑顔で答えた。ほどなく鈴木顧問が現れた。

「おはようございます、みんないる?」

一見こわもてに見えるが、かける声は温かい。
「朝ごはん食べた?」
「はい」

力強く返事をして彼女たちは、鈴木顧問の車に乗り込んだ。向かったのは先月まで彼女たちが辛い日々を送った京極町のM社だ。

ミャンマー人女性4人は札幌地域労組に加入し、M社に対して団体交渉の開催を要求しにいくのだ。

「もうとにかく、今ただなかにいる労働者たちに対する暴力をただちにやめること。それから未払いの賃金をしっかり払わさせること」と語る鈴木顧問。

以前、技能実習生のベトナム人を保護したときにうれしかった言葉がある。

「『鈴木さんは寒い日のふとんのようだ』と言われた。ミャンマーの彼女たちもこういうきっかけで出会ったけど、これも何かの縁。孫と変わらぬ年齢のかわいい子どもたちを全力で守る」

京極温泉の駐車場に到着し、札幌地域労組の三苫文靖書記長と桃井希生事務局次長と合流した。「トイレに行きたい」といって歩いて行った女性たち急ぎ足で戻ってくる。

「(M社の)父親と長男が乗る車をみかけた…」

こう言って身を縮こませる。小刻みに震えている女性もいる。

最初は彼女たちも申し入れに参加する予定だったが、車内で近くで見守ることにした。

三苫書記長らがM社の前まで来ると、すぐに次男がやってきた。いきなりの訪問で戸惑っている様子だ、間もなく長男が車で現れる。倉庫の前で両者は向かい合った。

札幌地域労組は、長男と次男に団体交渉を申し入れた。主な要求は以下だ。

1.外国籍労働者に対する暴行・虐待行為の即時停止要求
2.暴行、虐待及びセクシャルハラスメントについて謝罪し、補償すること
3.未払賃金を全額支払うこと

この場では答えられないから持ち帰らせてほしいと長男らは話したという。

この間、女性たちは近くに止めた車の中で札幌地域労組と長男らのやりとりを見守っていた。長男らにばれないよう後部座席に身を沈め、顔をあげて事態を見つめる。父親と次男の顔をみるたびに悲鳴を上げ「怖い」と口々に言う。

札幌地域労組の交渉が終わり、私たちが入れ替わり取材を申し込む。

長男らは会話には応じ、話し合いをする姿勢は見せるものの、取材については「今は答えられない」との一点張りである。

「複数の証言と裏付けるデータがある」として、父親から殴られた、お尻を触られた、「ミャンマーに帰れなどと言われたなど、取材で判明したことを問うものの、長男は肯定も否定もしない。そもそも誰がいなくなったのか名前もわからないと話す。

暴行の多くは、父親とミャンマー人の2人だけのときが多いが、長男と次男は「自分は暴力を振るっていない」と断言した。

もちろんミャンマー人たちの言うことが全て正しとは限らない。両方の言い分のなかに齟齬や誤解もあるだろう。外国人を雇う難しやそうした農家への支援の課題が背景にあるかもしれない。

その後、トマト畑で作業する父親に直接取材を申し込むが「取材には応じない」と断られる。