なぜ、長い配信は耳で聴かれるのか

理由は大きく3つあると考えています。

1つ目は、配信時間の長さです。VTuberのライブ配信は、1回が数時間に及ぶことも珍しくありません。雑談の配信では、4時間、5時間と続く回もあります。それだけの時間、画面を見続けられる人はそう多くありません。自然と、音は流したまま作業のBGM代わりに聴くスタイルに寄っていきます。

2つ目は、配信の中心がトークとリアクションだということ。しかも、そのリアクションのほとんどは音で伝わります。声の上がり下がりや息づかいで、いま良い場面が来ていることがわかる。ラジオのパーソナリティのあり方と、ほとんど同じ構造です。

3つ目は、キャラクターという仕組みの性質です。キャラクターは実写の顔に比べて表情の情報量が整理されていて、細かなゆらぎが少ない。そのぶん視聴者の注意は、顔の変化よりも声や話の中身に向かいやすくなります。見た目を作り込んだメディアが、結果として声を際立たせているわけです。

耳は、目とは別の時間を取りにいっている

少し視野を広げて、耳という感覚器の特徴を3つ整理しておきます。

1つ目は、視線の外まで届くこと。人間の目の視野角は200度ほどで、背後で何が起きているかは見えません。一方で耳は、見ていない方向の音も拾います。しかも声には、その人の状態を推し量る手がかりが多く含まれます。ささやき声や生活音を聴かせるASMRが、聴く人によって強い感覚を呼び起こすのも、音がそれだけこまやかな情報を運んでいるからだと考えられます。

2つ目は、「何かをしながら」が可能なこと。音声は、画面に視線を向け続けなくても受け取れるので、家事や歩行と組み合わせやすいのです。

3つ目は、産業としての見方です。テレビと動画とSNSとゲームは「目の可処分時間」を奪い合ってきました。音声メディアはそこと正面からぶつからず、目が塞がっているあいだの時間という、別の時間帯を取りにいっているのです。

背景のひとつと考えられるのが、ワイヤレスイヤホンの普及です。アップルのAirPodsが発売されたのは2016年12月。パナソニックが2024年2月に発表した、首都圏の学生と20代・30代の社会人あわせて600人への調査では、イヤホンのメイン利用がワイヤレスタイプという人が全体で73.5%、20代の社会人では80.5%でした。首都圏の若い層にかぎった数字ではありますが、耳をいつでもメディアにつなげる状態が、ここ10年で当たり前になってきたことはうかがえます。