ACEサバイバーが生きやすい社会へ/ACEを予防する社会へ
近年、子ども政策は前進している。こども家庭庁の設置、児童手当の拡充、幼児教育や高校授業料の無償化など、子育て支援は確実に広がってきた。
しかしその一方で、18歳を超えた瞬間から、人々の苦しみが「個人の問題」として切り離されてはいないだろうか。病気、依存症、失業、貧困、孤立――。それらを抱える大人に対して、私たちは「本人の問題」として接しすぎていないだろうか。
ACEサバイバーに対して、少なくとも支援の現場では、「自己責任論」によってさらに傷つけない関わりが必要である。近年では、こうした考えを「トラウマ・インフォームド・ケア(TIC)」と呼ぶ。相手の行動の背景にあるトラウマを理解し、その人を再び傷つけない支援を行うという考え方だ。とくに支援者養成の場で、ACEやTICについて学ぶ機会を広げていく必要があるだろう。
同時に、そもそもACEが生じにくい社会をつくることも諦めたくない。
ACEが生じる背景には、養育者側の孤立や困窮も深く関係している。経済的不安定、長時間労働、ジェンダー不平等、ケア責任の偏り――そうした社会構造のひずみが、養育者自身のストレスとなり、ACEの土壌を生んでいる。
次世代を育むことを選んだ人が、「子育て罰」を受けるような社会であってはならない。
親も、支援者も、そして子ども自身も、少し余裕をもって生きられること。親も、支援者も、心身に無理のない働き方ができ、安定した生活基盤を得られること。そして、ほどよく「開かれた家庭」の中で、誰かとつながりながら子どもを育てられること。必要な支援やサービスを、自助努力に頼ることなく受け取れること。
こうした一つひとつの取り組みは、理想論に聞こえるかもしれない。しかし、ACEはある日突然なくなるものではない。だからこそ、社会の側が少しずつ変わり、家庭の孤立を防ぎ、人と人とのつながりを支えていくほかないのである。
ACEを知るとは、「かわいそうな子どもの話」を知ることではない。
人々の生きづらさを、個人の弱みや失敗としてではなく、その背後にある家庭の孤立や社会のひずみの中で捉え直すことである。そのまなざしを持つことから、ACEサバイバーが生きやすく、ACEが生まれにくい社会への歩みが始まるのではないだろうか。
<執筆者略歴>
三谷はるよ(みたに・はるよ)
2009年大阪大学人間科学部卒業。2014年大阪大学大学院人間科学研究科 博士後期課程修了。博士(人間科学)。
専門は家族社会学・福祉社会学。日本における子ども期の逆境体験(ACE)に関する実証研究を進めている。
著書に「ACEサバイバー――子ども期の逆境に苦しむ人々」(2023・筑摩書房)など。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。














