年末、プーチン大統領の新年に向けた挨拶は、在任20年で最長の9分間にわたった。軍人風の若者たちを後ろに立たせ軍事行動の正当性を訴えた上で、軍関係者を労い称えた。

去年前半は頑なに戦争であることを否定していたが、部分動員以降徐々に“戦争色”を表し始めたロシア。そして今回のスピーチは、国民に向け戦時下であることを知らしめているかのようだ。新年を迎え様々な点で変わり始めた“プーチンの戦争”・・・。現場を取材した。

■「今のような天気は“神の恵み”だ」

年明け早々、2日、ウクライナのゲラシチェンコ内相顧問が不思議な写真をテレグラムに掲載した。真冬のキーウで桜が咲いている写真だ。冬の厳しさを何度も伝えてきたウクライナだが、実はこの冬、記録的な暖冬だというのだ。気温は連日摂氏10度を超えているという。これにはウクライナに詳しい専門家も驚く。

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長
「私も驚きました。これだけ暖かいとウクライナ全土の電力インフラを破壊して、ウクライナの人たちが寒い冬を越せなくするというロシアの当初の思惑が半減してきていると思う。南部東部の暖冬は地面が凍結しないことで(ぬかるみ状態が続き)重装備の車両を使った戦闘はやりにくくなるだろうと、マイナスの面もありますが・・・」

番組では暖冬のウクライナで兵士たちはどんな戦いを続けているのか、直接取材した。
インタビューに答えてくれたのは東部最大の激戦地・バフムトで戦う兵士だ。

ウクライナ『自由』大隊 ペトロ・クジコ 大隊長
「陽の当たる場所は摂氏16度くらい。日陰でも11度くらいある。異常なくらい暖かい。歩兵にとってはありがたい。車は泥沼で通れず大変だが、歩兵は寒いのが辛いから今のような天気は“神の恵み”だ。(中略)この部隊はキーウ出身者が多いので、キーウの市長が大みそかに慰問に来た。新年の挨拶をして、スターリンクや必要不可欠なドローンを持ってきてくれた。民族楽器バンドゥーラの音楽チームを連れてきてくれた。(懇談会の途中で)キーウにミサイルとイラン製ドローンの攻撃があったという情報が入ったので市長は急遽キーウに戻った。零時ちょっと前だった。バフムトではロシア軍がまた突進してきたので新年を祝うべき時に私たちは戦場にいた・・・」

年末年始も激戦の中にいる兵士たち。その中で、ロシア軍にある“変化”を感じたという。

■「戦場から逃げようとする兵士を殺す督戦隊もいる」

去年の情報では東部戦線のロシア軍は民間軍事会社ワグネルの部隊が主流で、これが手ごわいと聞いていた。ところが・・・。

ウクライナ『自由』大隊 ペトロ・クジコ 大隊長
「ワグネルは死傷者が非常に多いためワグネルの兵が少し減り、動員兵とロシア正規軍が少し増えている。ワグネルの兵士は受刑者が多い。ロシアの刑務所という厳しい環境を生き抜いてきた者たちだから逞しく、かなりの悪党だ。ワグネルには犯罪組織のようなルールがあり、戦場から逃げようとする兵士を殺す督戦隊もいる。(中略~逞しいワグネルが減った分、増えた)動員兵は全く訓練を受けていないと思う。ただの補充だ。すぐ逃げようとするし、戦うのは少し楽だ」

アメリカの戦争研究所のレポートでも、ワグネルが大きな部隊を組めるほど人員を持っていないことが指摘されているというのは東大先端研の小泉氏だ。

東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「ワグネルはもう小さな部隊しか作れないんですよ。さらに最近、ワグネルが最初に採用した受刑者たちのグループが半年生き残って帰還したっていうニュースが流れた。たぶん『ワグネルに応募すれば君たちもこうやって自由の身になれる』っていうアピールをしなければ次が集まらなくなってるんだと・・・」

このワグネル兵が減って、動員兵が補充されている点は、ロシア軍がもはや立て直しが困難なのではないかと見るのは兵頭氏だ。

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長
「ワグネルを含めた連携がうまくいっていないのは以前から言われている。ロシア軍が抱える“構造的な3つの問題”というのは・・・。一つ目は、兵力不足には部分動員をかけたが、動員兵は満足な訓練を受けていないから兵力不足の解消になってない。逃亡兵も多いですし・・・。二つ目は、兵器不足についてイランと北朝鮮だけが頼み。3つ目は、指揮命令系統。つまり正規軍と他の兵士たちとの連携が全く取れていないということ…この点が改善されていないことが今回のインタビューから明らかになったと思います」

ウクライナ軍が肌で感じるロシア軍の“変化”。それは東部戦線だけのことではなかった。