「上司の命令禁止」?徹底した市場原理と個人の意思

野村:8600万円を稼ぎ出すような人は、具体的にどういった動きをしているのでしょうか。

岡:高い技術で価値ある仕事を完遂するのはもちろんですが、ディスコには「PIM(Performance Innovation Management)」という業務改善運動があります。ここで優れた提案をしてプレゼンで勝利すると、多額のボーナスWillが支給されます。また、営業であれば、外から大きな案件を獲得してくることで高いインセンティブを得られます。

野村:社内市場原理を徹底すると、上司の立場はどうなるのでしょうか。

岡:ここがディスコのユニークな点ですが、上司からの指示や命令は原則として禁止されています。

野村:指示が禁止なのですか?

岡:上司の命令で動いてしまうと、「成果が出ないのは上司の指示が悪いせいだ」という言い訳ができてしまいます。それを防ぐため、あくまで「提案」にとどめ、社員が自分の意思で仕事を選び、価格を決めます。

さらに、強力な「フリーエージェント(FA)制度」もあります。今の上司の許可なく、他部署の部長と合意できればいつでも異動できる。つまり、嫌な上司や無能な管理職からは部下がどんどん逃げていき、仕事が回らなくなります。上司も「選ばれる存在」でなければならないという、究極の市場原理が働いています。

20年以上の試行錯誤を経て到達した「驚異の生産性」

野村:この仕組みは、最初からうまくいっていたのでしょうか。

岡:いいえ、導入から20年以上の歴史があります。1990年代にアメーバ経営をベースとした管理会計から始まり、2011年頃に個人単位のWill制度へ移行しました。当初は「おままごと」のように感じる社員もいたそうですが、2014年頃から個人Willとボーナスを本格的に連動させたことで、社員の意識が劇的に変わりました。

野村:その成果は数字にも表れているのでしょうか。

岡:圧倒的です。個人Willを導入した2011年当時の「1人あたりの営業利益」は約386万円でしたが、2024年には3174万円まで上昇しています。営業利益率は40%を超えており、これはNVIDIA(エヌビディア)のような世界的テック企業に匹敵する、製造業としては驚異的な数字です。