社内通貨「Will」がもたらしたものとは?

野村:これほど数字にシビアだと、余裕がなくなったり、育児や介護など人生の転換期にいる人が苦労したりはしないのでしょうか。

岡:実は、逆の側面もあるようです。たとえば育休明けの社員からは、「Willを支払うことで仕事を依頼できるのが、精神的に楽だ」という声があります。急な早退が必要なとき、単に「申し訳ない」と謝るのではなく、正当な対価(Will)を支払って引き継いでもらう。そうすることで、感情的な「貸し借り」ではなく、ビジネスライクに解決できることが、心理的な負担を軽減している側面があります。

野村:なるほど。お願いベースではなく、システムとして解決できるわけですね。新しいことへの挑戦についてはどうですか?

岡:そこには「インベストメントボックス」という仕組みがあります。社内でプレゼンをして仲間からWillを募る「社内クラウドファンディング」のようなものです。出資したプロジェクトが成功すれば、投資した社員にも配当が入ります。上司に予算を仰ぐのではなく、社員同士が「このプロジェクトはいける」と見込んで投資する。まさに社内ベンチャーキャピタルのような機能まで備わっています。

日本企業の停滞を打破する「ディスコ流」の教訓

野村:今回、ディスコの全貌を伺ってきましたが、非常に合理的な仕組みだと感じました。

岡:そうですね。取材して印象的だったのは、高年収を狙うギラギラした人ばかりではなく、意外にも穏やかで配慮のある方が多いことでした。「嫌な奴」と思われてしまうと仕事が回ってこなくなり、Willを稼げなくなるからです。結局、経済合理性を突き詰めると、誠実に他者と協力することが一番得になる、という世界観が構築されています。

野村:「働かない人が高い給与をもらっている」という不満が一切出ない、徹底した透明性。上司の主観的な査定ではなく、社内の市場価格で評価が決まるという仕組みは、多くの日本企業にとって耳が痛い話かもしれませんが、非常に示唆に富んでいると感じます。

岡:社員を信じ、権限と責任をセットにして完全に委ねる。そして、出した成果に対しては上限なく報いる。ディスコが示しているのは、そんなシンプルで力強い経営の形なのかもしれません。

<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。