強さ① 100年かけて積み上げた「物語」

ロレックスは、自分たちの時計を「冒険の証人」として語り続けてきた会社です。

1927年、メルセデス・グライツという女性が英仏海峡を泳いで渡ることに挑戦したとき、その手首にはロレックスがありました。1953年、人類が初めてエベレストの頂に立った遠征隊が着けていたのがエクスプローラー。1960年、潜水艇トリエステ号が世界最深のマリアナ海溝に沈んだとき、その船体にくくりつけられていたのもロレックスでした。

どれも、ただの広告ではありません。「極限の場所で、ロレックスは動き続けた」という事実を、ひとつずつ歴史に刻んでいったのです。ウィンブルドン、マスターズ、F1。ロレックスがスポンサーに選ぶのは、決まって「お金と社会的地位のある人が憧れる舞台」です。安売りのイメージがつく場所には、決して出ていきません。時計そのものを売り込むのではなく、時計が置かれる「文脈」を100年かけて育ててきました。

この積み重ねが効いてくるのは、人が時計に何を求めているかを考えるとよくわかります。高級時計を買う人は、正確に時を知りたいわけではありません。正確さだけなら、数千円のクオーツのほうが上です。彼らが欲しいのは、その時計が背負っている物語であり、それを身につけた自分が、どんな世界の一員に見えるか、なのです。だから人はロレックスに、性能ではなく物語の値段を払います。ここがロレックスの出発点です。

強さ② 中古市場すら、自分の味方にする

ふつう、メーカーにとって中古品は商売の敵です。中古が安く出回れば、新品が売れなくなるからです。ところがロレックスは、その中古市場すら自分の武器に変えてしまいました。

ロレックスの代表的な139モデルの価値の維持率は、平均で新品の定価を14.1%上回っています(WatchChartsの2026年時点データ)。つまり、買った瞬間に値下がりするどころか、値上がりする時計なのです。これは「腕時計」というより「資産」に近い存在です。

2022年、ロレックスは公式の中古認定プログラム(CPO)を始めました。自社で中古品の本物保証をつけて売る仕組みで、その推計売上は約1000億円とも言われます。さらに2023年には、1888年創業の老舗小売店ブヘラを買収しました。販売の現場と中古の流通を自分の手の内に収めることで、ロレックスは中古価格に「これ以下には下がらない」という下限を設けたのです。

考えてみれば、これは見事な仕掛けです。中古でも値段が落ちないとわかっていれば、人は安心して新品を買えます。買ったあとも資産として持てますし、いざとなれば高く売れます。中古市場が荒れてブランドの価値が削られるどころか、中古が高く保たれることで新品の価値まで守られる。新品を支えるために、中古を野放しにしない。この循環が、ロレックスの価値をさらに強固にしているのです。