裁判官にも難民保護の義務

「地裁も高裁も国際難民法のグローバルスタンダードに沿って難民申請者の供述の信用性を評価している。いい意味での教科書的な判決だ」

国際人権法の専門家である阿部浩己・明治学院大教授は2つの判決を高く評価する。その理由を詳しく紹介したい。

まず、争点である供述の信用性については…。

「第1に供述の核心部分に焦点を当て、周縁部分の矛盾には過度に固執してはいけないという難民認定の大原則を忠実に守っている。特に高裁は踏み込んで、難民申請者が置かれた弱い立場を考慮しつつ、時間の経過によって記憶が曖昧になることで変遷のように見えるなどとしている。第2に難民認否の判断に関係がない無意味な出身国情勢を羅列することなく、本件に真に必要な人権を巡る情報を基に、供述内容と整合しているかどうかを見ている。高裁は政府の情報だけでなく、定評ある国際NGOの情報にも幅を広げて供述は信用できるとした

文書偽造の可能性については「高裁はどういう経緯で誰が作ったのか、申請者が関与しているとは思えないなどと見極めたうえで、偽造されたとしても核心部分の信用性には影響しないと非常に丁寧に判断した」と語った。

また、「SCNCに関する知識は組織の末端に属していたので、そんなに詳しく知らなくても不思議はないと合理的に判断した」と評価した。
この「迫害する側から個別に把握されていなければ難民とは認めない」という入管の「個別把握説」については若干、説明が必要だと思うが、2023年に3回以上の難民申請者の強制送還などを可能にする入管法の改定案が国会に提出された際、当時の入管庁次長は「ご指摘のような考え方は採用していない」と述べていた。しかし裁判では従来と変わらず国会答弁に反する主張をしていた。阿部教授は「裁判所は個別把握説を採らず、男性のような立場にある人ならば個別に把握されていなくても警察から狙われておかしくないと判断した」と語った。

そのうえで、「難民条約は国家機関である裁判所・裁判官にも難民を保護する直接の義務を課しているが、2つの判決には『もし判断を誤って出身国に帰してしまい、重大な人権侵害が生じるような事態は、何としても避けなければならない』という難民条約の基本的な要請が反映されている。1990年代から弁護士や支援者が粘り強く続けてきた闘いの成果が、司法の場に映し出されつつあることをうかがわせる意義深い判決だ」とたたえた。

入管の判断を覆してクルド難民を認めた札幌高裁判決(2022年)、ウガンダ難民が逆転勝訴した東京高裁判決(2023年)、3回にわたり難民不認定とされたミャンマーの少数民族ロヒンギャを難民認定した名古屋高裁判決、やはり3回不認定とされたアフリカ出身の政治活動家を難民と認定した東京地裁判決(2024年)などに続く、今回の2つの判決。この流れを定着させるべきだし、そうなれば、保護すべき人が保護されていない現在の入管行政に大きな影響を及ぼすことになる