「暴力団排除」を訴える猪狩弁護士に逆風
猪狩の反社会勢力との戦いは波乱に満ちていた。
プロ野球界の現状を目の当たりにした猪狩は、2003年4月、第一東京弁護士会の民事介入暴力対策委員長に就任すると、実務と並行して理論の構築に取り組んだ。
そこで行き着いた発想はこうだった。
「企業のあらゆる契約書に暴力団とは契約しないという暴力団排除条項を導入すれば、そもそも端から経済取引に介入しようとする暴力団を排除できるのではないか」
この発想はまさに「野球協約」に「暴力団排除条項」を盛り込む支柱となったものだ。
その主張を『暴排条項の法理と活用』(金融財政事情研究会刊)にまとめ、暴排条項をあらゆる企業の契約書、覚書などに明記する必要性を力説した。
しかし、一方でこんな声も上がった。
「暴力団、ヤクザにも人権がある。社会的に受け入れられるはずがない」
さらに追い討ちをかけるように、大きな壁が立ちはだかる。
2005年4月に施行された「個人情報保護法」である。
この法律の影響は大きかったーー「暴力団情報」は高度にセンシティブな情報であり、厳格に扱うべきだとの認識が広がったのだ。企業の間にも、暴力団員の個人情報にかかわる情報収集や共有ができなくなるのではないかとの思い込みが、浸透していったのだ。
猪狩はこう反論した。
「それは誤った考え方である。情報の活用ができなければ、反社会勢力を利し、のさばらせることにつながる。暴力団情報の活用は社会の利益のためになるものであって、その利用や提供が何ら制限されるものではない」(「激突」猪狩俊郎)
抱えていた仕事を中断し、猪狩はこの時期、執筆と編集に明け暮れた。それは理論武装を徹底するためだった。
2005年6月に執筆した本のタイトルは『個人情報保護と民暴対策―反社勢力情報の法理と活用』(金融財政事情研究会刊)。
この中で、猪狩は「暴力団情報」の入手は法律上も可能であり、反社排除のためには不可欠な情報であるとあらためて訴えた。
さらに発信は続く。暴排の具体的な手法を伝えるために『民事介入暴力の法律相談102問』(学陽書房刊)を刊行。
「個人情報保護法」によって暴力団捜査がやりにくくなった一方で、正当な「捜査関係事項照会」など法的手続きを踏めば捜査は可能で、同法は個人情報の収集や開示を全面的に禁じるものではないと論じた。














