“対話”しても再び…「自分で全部決めることが異常」
当事者研究を経て、社会で歩み始めた人もいれば、再び塀の中に戻ってきてしまう人もいる。
札幌刑務所で当事者研究を受けて出所した40代のSさん。去年11月、実家のある静岡県で駐車中の他人の車を傷つけて逮捕・起訴された。
3月、浜松拘置支所に勾留されていたSさんは、記者の面会に応じた。
Sさん
「社会は好きなことができるところだけど怖い。自分が生きていくうえで必要なことは全部やらないといけない。刑務所の方が安心できる場所になってしまった。本来は逆じゃないといけないと思う」
「もう戻らない」という決意はどうして揺らいでしまうのか。
Sさん
「決意自体は変わらないが、自分の思うようにいかない時に、社会での生活に嫌気がさしてしまう。人によって態度を変える人がいたり、グループホームで金銭管理をされたり。そういう人間関係や施設のルールで納得がいかないことがあると、刑務所に戻りたくなってしまう」
札幌刑務所での当事者研究は、Sさんに何を残したのか。記者は最後に尋ねた。
Sさん
「経験や研究チームの存在は生きている。自分自身が成長するために、誤った道へと踏み外さないために相談できる相手がいることは大きい。刑務所に入っても手紙のやり取りは続けて、生活の悩み事ができたら相談しようと思う」

先月19日、静岡地裁浜松支部はSさんに拘禁刑2年6か月の実刑判決を言い渡した。
大村明菜裁判長は量刑の理由について「被告人はこれまでも刑務所に入りたいという動機から建造物損壊等を繰り返し、今回も前刑の執行終了後約1年半で本件犯行に及んでいることから、常習性は顕著であり、その短絡的かつ身勝手な動機に酌むべき事情はない」とした。
Sさんの国選弁護人の大久保実哲弁護士は、Sさんの現在地をこう語る。
大久保実哲 弁護士
「自由が怖いという形なのかな。自分で全部決めなきゃいけない状態の方が彼の中で異常になっていたのかな。そこの認識を変えなきゃいけないよというのをずっと言っていたのですけれど、どうやったら変えられるのかはこの短い3か月の間では見つけられなかったですね」
どうすれば社会に居場所を作れるのか、答えは簡単に見つからない。
札幌刑務所に服役していた2020年ごろのSさんは、「刑務所が最も対応に困る受刑者」だった。
自らの要望を通そうと、刑務所の居室の天井を殴って壊し、建造物損壊容疑で服役中に書類送検されたこともあった。
ともに当事者研究に取り組んだ刑務官は、Sさんの再犯をどう受け止めているのか。
札幌刑務所の刑務官
「うちで過ごしていたような生活の仕方ではない、いい意味での変化があったらいいなと思います。天井を壊すとか、そういうことにならない。人に何か話ができて不満が解消されて、そういう機会が減るとか。当事者研究をやったのだからそうなってほしいという自分のエゴのような気もするけれど、刑務所の過ごし方が変わればその人自身も変わる、ターニングポイントになるのではないかなと」
元札幌刑務所長 長島信明さん
「刑務所の悪い癖で、まいた種はすぐに芽が出て欲しいのです。ただやっぱり人それぞれなので、今日まいた種が嵐にあって紆余曲折あって、10年後にちょっとした芽が出る場合もあるし、一旦また枯れたりする場合もあるので。それは人それぞれなので。こちらとしては当面の際立った成果がないからといって、種をまく作業をやめるわけにはいかないという気持ちでいます」














