■年末に『新年おめでとう』は言えない

「あ、今年はあのメッセージを撮らなくていいということか」11月、年末年始の行事について取材していると、とある宮内庁幹部はそう言ってほっとした表情をみせた。

“あのメッセージ”とは、去年と今年、天皇陛下が元日の朝に国民向けに出されたビデオメッセージのことだ。2021年と2022年は、コロナで一般参賀が見送られたため、かわりに陛下による「メッセージ」が発表された。元日の朝に世に出すためには、年末に撮影しておく必要がある。しかし、陛下はこの『前撮り』に大変抵抗感をもたれたそうだ。

陛下は「実際に年が明けて、その時本当に自分が感じたことを、国民に語りかけるべきじゃないか」と言われたという。とはいえ元日は朝から様々な儀式があるため、なんとか説得したものの、翌年も「やはり年末に『新年おめでとう』というのは違う」となかなか納得されなかったと振り返る。

2023年は新年一般参賀が復活するため、この“事前収録”をしなくてすむと、周辺の宮内庁幹部は胸をなでおろしたというわけだ。そして少し嬉しそうに、「意外に思われるでしょうが、陛下は、良い意味で“頑固”なところがおありなんですよ」と明かした。

式典でのおことばや、ビデオメッセージは、句読点のひとつひとつまで細かくこだわり、前例の踏襲ではなく、「ひとつひとつオーダーメイドで取り組んでいる」(側近)という。

国民への言葉に責任を持ちたいという陛下の誠実さが表れていると思う。

“良い意味で頑固”ということは、今後、令和の象徴像を考えていく上で、一つのキーワードになる気がした。

■「生きた心地がしなかった」英国訪問

9月、両陛下はエリザベス女王の国葬に出席するため、イギリスを訪問された。同行した幹部の一人は、このイギリス訪問を「生きた心地がしなかった」と振り返る。その理由はコロナだ。宮内庁の幹部らが「陛下が誰よりも慎重だ」と口を揃えるほどに、陛下の感染防止に対する意識は徹底していた。それは自身やその周辺への感染の広がりを恐れてというより、医療従事者やエッセンシャルワーカー、そしてコロナで苦しんでいる人々への配慮もあったとも聞く。公務のみならず、静養さえ3年連続で見送られたのはそのためだ。しかしイギリスにいけば、そうした感染対策が一瞬で水の泡になる危険性もあった。

にもかかわらず、陛下は「これは絶対に私が行かねばらならない」という気持ちを持たれていたという。昭和天皇、上皇さま、天皇陛下と3代にわたる交流、留学中に家族のように接してくれた思い出、そして、即位後に受けた国賓としての招待、そうした女王の気持ちに応えられたかったのではないか。

「多少のリスクがあっても行く。あれは本当に陛下のお気持ちが強かった」(宮内庁幹部)ということで、良い意味での“頑固さ”に、ここでも触れた思いがした。

■「両陛下はなぜ被災地を訪問されなかったのですか?」ベテラン記者からの質問

平成というとても個性の強い時代を見てきた多くの国民にとって、「令和皇室」の具体的なイメージというのは、未だつかみにくい。

11月、両陛下の定例の地方公務である「全国豊かな海づくり大会」が開催され、両陛下は兵庫県を訪問された。地方訪問の際には、現地で県知事の記者会見が行われるのだが、この時の県知事会見では、ベテランの宮内庁担当記者からこんな質問がとんだ。

記者:
「今回はなぜ阪神淡路大震災関連先への訪問がないのですか?どのような検討がなされたのか、そのプロセスを教えてください」

両陛下の地方訪問は、主目的である式典へ出席に加え、その地域の特色ある場所に行ったり、地元の人と触れ合ったりすることに、大きな意味がある。この兵庫県訪問では、神戸市の理化学研究所や、明石市の水産技術センターなどを訪れたが、阪神淡路大震災の関連先は訪問されなかった。知事が「宮内庁とも相談し、総合的に決めた」と答えると、別のベテラン記者がこう重ねた。

記者:
「両陛下とも被災地訪問に力を入れてこられた。両陛下がこれからどういうあり方を示していくかという意味で、被災地関連がないのはさびしい思いだ」

現在の上皇ご夫妻が、自然災害が起きるたびに被災地を訪問し、避難所で床に膝をつき、被災者を励まされる様子は、多くの国民の脳裏に焼き付いている。いつしか『平成流』と呼ばれるようになったその姿は、上皇ご夫妻が在位中に強い意志をもって積み重ねてこられたものの結果だ。

では、「令和流」とは何だろうか?ある幹部は「その時代のカラーというのは、両陛下が積み重ねた結果として、自然と見えてくるものであって、どうこうしようと思ってなるものではない」と指摘する。

上皇ご夫妻が築かれた「国民とともに」という象徴像を、令和皇室はどう継承し体現されていくのかーーコロナという大きな国難を経て、そのあり方を示される時が近づいているのではないだろうか。

■3年ぶりの一般参賀 愛子さまも初参加

2023年は、3年ぶりに新年一般参賀が行われる。愛子さまも初めて出席される。即位以降、様々なものができなくなる一方だった令和皇室にとって、令和5年の幕開けは少し明るさを感じられるものだ。

宮内庁の西村長官は定例の記者会見で、2023年の皇室の活動について、ウィズコロナの方針を継続し、公務は直接現地に足を運んでいく予定だと明言した。

どこへ行き、どんな交流が生まれるのか―ひとつひとつの活動に頑固に誠実に取り組まれる陛下のなさりようの中に「令和流」を見つけていきたいと思う。