半年ぶりに会った母 老いた様子に焦り

巣鴨版画集より

山形から上京するには、夜行列車で一晩かかる。トメの面会は半年ぶりだった。幕田がスガモプリズンに収監されてすでに3年が経ち、トメは52歳になっていた。久しぶりに母の顔をみると、老いた様子が目についた。

<幕田稔大尉の遺書(昨日今日の日記)>
この前、風邪を引いて寝ていると、久子さん(妹)から手紙が来たので心配していましたが、会ってみるとやや肥った顔にやや安心しました。ただ額の皺が急に目に立ったのと、前歯が欠けていたのとが、少し年寄りになった様な印象を私に与え、家の将来を考えるとちょっとじっとしておれない焦燥を感じました。


自分の刑の執行を知ったのは、その数時間後。家路についた母を思って、幕田は歌を詠んだ。

<幕田稔が遺書に書いた歌>
吾が最後(つい)の夜とも知らず陸奥(みちのく)に帰りつつあらむ老母思ふ