民主主義と自由を守るために必要なことは
アメリカのテック業界は1996年以来、通信品位法第230条によって保護されてきた。これは掲示板やSNSなどにユーザーが投稿したコンテンツに対して、プラットフォーム企業が原則として法的責任を負わないとする規定である。
近年、改正や廃止も検討されているが、テック企業やSNS企業の多くは訴訟リスクの増大や「言論の自由」などを理由に、全面廃止や大幅な改正に反対している。
たしかに規制には慎重さが必要だ。中国やロシアでは、ネット規制が政権への批判を抑える言論統制にまで及んでいると指摘されている。政府が規制対象を恣意的に決められるようになると、規制は容易に検閲や権力強化の手段へと転化しうる。
しかし上述のように、今日のSNS上での「自由な言論」は、かえって民主主義の基盤を揺るがしつつあるようにも思える。予測AIと生成AIが組み合わされたアルゴリズムは、事実よりももっともらしい虚構によって人々を動かし、「世論」を形成する。それは虚構を作り出し動員する力のある人々に権力が集中しやすいことも意味している。だとすると、私たちの民主主義と自由を守るためにこそ、一定の規制枠組みは必要なのだ。
実際、ここ数年で各国での規制は進みつつある。EUではデジタルサービス法やAI法による規制が導入され、子どものSNS利用を禁止または制限する国も増えている。日本でもAIに関するガイドラインや法整備、また「情プラ法」などによるSNS上での誹謗中傷などへの対策は進みつつあるが、アメリカと同様、強い拘束力のある規制には慎重だ。
しかしAIやSNSは、いまや私たちの知や社会のあり方を形づくる社会インフラの一部である以上、それらのガバナンスは民主主義そのものの行方を左右すると言っても過言ではない。
重要なのは、AIやSNSの設計・運用を私企業や国家の裁量に委ねないこと、そしてそれらを公共財(あるいは共有財)として社会の中に位置づけ直すことだろう。その自由と力が、まだ私たちの手に残されているうちに。
(注1) Hany Farid, “AI-Fueled Ignorance, Confusion, and Profit,” in Ignorance Unmasked: Essays in the New Science of Agnotology, ed. by Robert N. Proctor and Londa Schiebinger, Stanford University Press, 2025.
(注2) 山口真一『炎上で世論はつくられる』ちくま新書、2026年。
(注3) ハンナ・アーレント『全体主義の起源3 全体主義』大久保和郎訳、みすず書房、2017年(新版)、345頁。
(注4) 耳塚佳代「汚染とメディアリテラシー」、藤代裕之編『フェイクニュースの生態系』青弓社、2021年所収。
(注5) Robert N. Proctor, “Agnotology, Thirty Years in the Making,” in Ignorance Unmasked.
(注6) Benjamin Franta, “How the Most Important Fact of Global Warming Has Been Obscured,” in Ignorance Unmasked.
<執筆者略歴>
鶴田 想人(つるた・そうと)
東北大学DEI推進センター特任助教ほか。専門は科学史・科学論。
1989年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士過程満期退学、修士(学術)。大阪大学社会技術共創研究センター特任研究員などを経て、2025年より現職。
共編著書に「ジェンダード・イノベーションの可能性」、「無知学への招待」(共に明石書店)、共訳書にシービンガー「奴隷たちの秘密の薬」(工作舎)など。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。














