「子ども時代」をめぐる問いは続く
3か月が経過した世界初の国家レベルでの「実験」は、子どもを持つ親や社会、そして世界に議論の輪を投げかけ、問題意識を高めることには成功を収めたように見える。しかし、最も重要な「子どもをSNSの害(負の側面)から守れるのか?」との問いに、まだ答えは出ていない。
SNSで地方の孤独な子どもが居場所を見つけ、障害のある子どもがコミュニティとつながり、性的少数者の若者がアイデンティティを確認するという「コミュニケーションの自由」をこの法律が奪ってしまう可能性があることも事実だからだ。
オーストラリアのネット安全規制当局は、この法律の効果を検証するため、4000人超を対象とした2年以上の追跡調査を行うことを今年2月下旬に正式発表した。スマートフォンの利用状況、学校の成績、医療データなどを幅広く活用するが、最初の結果が出るのは、早くても2026年後半以降だ。
一方、今月5日に訪日して高市首相と面談した“影のアメリカ大統領”とも呼ばれるA I企業「パランティア・テクノロジーズ」のピーター・ティール会長が昨年、オーストラリアのSNS年齢確認義務を「インターネット匿名性の終わりの始まり」と批判するなど、プラットフォームやIT企業側からの新法に対する反発は根強い。
シドニー大学のペイジ・ジェフリー准教授は「この問題に魔法のような解決策はなく、責任の共有が必要です。リスクを避けながら子どもがSNSの恩恵を享受できるよう導くことが重要」と強調する。
「子どもに子ども時代を返したい」――新法制定時にアルバニージー首相が語ったその言葉に、多くの親が共感した。だが、生まれた時から「デジタル社会」で育つ子どもたちにとって「子ども時代」の意味は、大人たちが考えるものとは少し違うのかもしれない。
この世界初の「実験」の答えが出るまで、この問いは続く。
〈執筆者略歴〉
飯島 浩樹(いいじま・ひろき)
TBSテレビ・シドニー通信員(契約コーディネーター)
2000年シドニー五輪支局の代表を務めた後、シドニー通信員として特派員業務を行う。
これまで、オーストラリアやニュージーランド、南太平洋島嶼国を精力的に取材し、歴代首相や著名人への単独インタビューなどを敢行している。
著書に『アボリジナル・メッセージ』(扶桑社)、『躍進する未来国家豪州 停滞する勤勉国家日本』(いろは出版)などがある。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。














