史上初の2時間4分台日本選手のデッドヒート
東京マラソンの第1集団は2時間2分台を目指すペース設定だったため、有力日本人選手は第2集団でレースを進めた。30kmでは大迫、鈴木、東京2025世界陸上11位の近藤亮太(26、三菱重工)、ニューイヤー駅伝5区区間賞の太田蒼生(23、GMOインターネットグループ)、そして“山の名探偵”工藤慎作(21、早大3年)と、大会前に注目を集めた選手たちが揃っていた。
最初に動いた日本人選手は鈴木だった。32km手前で前に出て、他の日本選手たちを引き離し始めた。だが鈴木のペースアップは長くもたず、34km付近では集団に吸収された。
「中国の選手が前に出たので、その流れに自分も乗って行きたいと思ったのですが、付ききれませんでした。あそこで行き切れたら、本来の自分の走りだと言えるのですが、まだまだですね」
その後は大迫が集団の先頭に立つ形でレースが進んだ。38km付近からは、日本勢では大迫と鈴木の先頭争いに。新旧日本記録保持者対決は過去にもあったが、2時間4分台を持つ日本選手同士の争いは、マラソン史上初めてのシーンだった。大迫は「(マラソンファンは)みんな盛り上がっているだろうな」と思いながら走っていたという。
レース2日前の会見で、大迫は「2人の自己記録とセカンド記録を足したタイムが一緒なんです」とコメントした。
【大迫】
2時間04分55秒(25年バレンシア)+2時間05分29秒(20年東京)
【鈴木】
2時間04分56秒(21年びわ湖)+2時間05分28秒(22年東京)
これは「数字の面から見ても非常に面白い関係。楽しんで見てもらえたら」という狙いで発言した。その言葉通り、日本のマラソン史上最速の2人が激しく競り合っていた。
最速同士の対決は大迫が、40km以降で10秒の差を付けて決着した。
「あれは対決というよりサバイバルでした。ペースを上げるのではなく、落ち幅をどれだけ少なくするか、という勝負。今回はちょっとだけ僕の方が耐久力があった。それだけの話だと思います」
鈴木の力を認めた発言であり、外国勢とのタイム差も考慮して控えめに話したと思われる。だが大迫のラスト2.195kmは6分30秒で、6~9位の選手たちより速いタイムでカバーしていた。
トレーニングの変更で「毎年元気になっている」と大迫
2人の対決は過去2回。19年MGCと23年MGCだけで、19年は大迫3位・鈴木7位、23年は大迫3位・鈴木途中棄権で、大迫が2連勝中だった。プロ選手として自身のスタイルを早い段階で確立した大迫が、MGCという大一番でも安定した強さを見せていた。前述のように五輪マラソンには2大会連続で出場し、東京五輪では6位とプロ選手の名に恥じない活躍をしてきた。
大迫の一番の特徴は、世界で戦う意思の強さだろう。学生駅伝に出場していた頃も、トラックで世界と戦うことを常に意識していた。大学4年時の箱根駅伝前に、オレゴンのチームで練習をしたことにそれが現れていた。自身の力でスポンサーを獲得したり、コーチと契約したりするなど競技や生活環境を整えた。拠点とする米国だけでなく、ケニアでも何度もトレーニングを行っている。そして何より、ハードなトレーニングとケガをしないことを両立させた。
もちろん大迫といえども、全てが上手く運んでいたわけではない。拠点としていたチームは19年に解散したし、東京五輪には大会後の引退を表明して出場したため、一度引退したこともあった(22年に現役復帰)。24年はボストン・マラソンで13位、パリ五輪でも13位と入賞を逃している。昨年2月の丸亀国際ハーフマラソンは44位だった。しかし大迫は昨年12月のバレンシアマラソンで、2時間04分55秒と日本新で復活した。
「バランスの良いトレーニングを積めるようになりました。昔は元気すぎたこともあって、ハードなトレーニングでぐんぐん押していましたが、一昨年あたりから結果的に、トレーニングのやりすぎや距離の踏みすぎ、いわゆる追い込み過ぎだった部分が、今思えばありました。そこをちゃんと、心拍など色んな部分をデータ化することで、自分がもっと頑張りたい、あるいは休みたいという気持ちではなく、客観的なデータで判断するようになったんです。現状をデータとして把握することで3か月、6か月スパンの中で上手く継続して、効率よくサイクルを回していくことができるようになりました。トレーニングをしすぎると回復が不十分になって、トレーニングのクオリティが下がってしまいます。結果的にレースペースでのトレーニングができなくなったりしました。そういったところが効率化されて、より良いトレーニングができるようになっています」
コーチには、オレゴンのチームに所属していた当時から継続して指導を受けているが、そのコーチとの関係も変化しているという。「僕もアスリートとして成熟しきて、コーチもそこを理解して尊敬してくれて、イコールの関係でやっています。以前ほどべったりではないのですが、より強い信頼関係の中でコミュニケーションをとってトレーニングができています」
今回は暑さと向かい風も影響し、ペースメーカーが予定のペースで先導できず、タイムは想定を下回った。だが東京マラソンの大迫は、プロ選手として新たな段階に上がった、と言える結果を残した。

















