1994年にノーベル文学賞を受賞した作家・大江健三郎さんが、学生時代に執筆したとみられる未発表の小説2篇が見つかりました。現存する大江さんの作品の中では「最古」の小説も含まれているということです。

発見された作品は▼『暗い部屋からの旅行』と▼『旅への試み』の2篇で、かつて、大江さんが通っていた東京・北区の下宿先から去年(2025年)11月に発見されました。

大江健三郎文庫によりますと、2つの作品は1955年から57年にかけて執筆されたものです。

『暗い部屋からの旅行』は原稿用紙82枚の3部構成からなる短編で、大江さんの現存する小説としては最も古いということです。

東京大学教授で大江健三郎文庫運営委員会委員長の阿部賢一教授によると、のちの作品には珍しい「恋愛」の要素が強く打ち出されているということです。

『旅への試み』は原稿用紙42枚の短編で、加筆や修正がほとんどなく、デビュー作『死者の奢り』や『他人の足』と同じ時期に書かれているため、『他人の足』の習作の可能性もあるということです。

阿部教授は、「今回の発見は初期の大江文学の原点を知るうえで重要な資料になる」と話しています。

2つの作品は、今月(3月)6日発売の文芸誌「群像」4月号に掲載されるほか、自筆の原稿が「大江健三郎文庫」で研究者向けにデジタル画像で公開されるということです。

今回、原稿の調査にあたった東京大学大学院人文社会系研究科研究科長の村本由紀子教授は、「読者にとっては大きなサプライズ。貴重な原稿によって多くの研究者の異なるアプローチが可能になるので、新しい知見が広がることを期待したい」とコメントしています。

今回の発見を受けて、戦後の日本文学研究のさらなる進展が期待できそうです。

大江さんは1958年、大学在学中に戦時下の村で黒人兵を幽閉する家族を描いた『飼育』で当時、史上最年少の23歳で芥川賞を受賞。『個人的な体験』や『万延元年のフットボール』など、自身の体験や独特な表現を織り交ぜた作品を次々と発表し、1994年にはノーベル文学賞に輝きました。