多言語化には国内外のルール整備も必要

ただ、日本人声優の声を多言語化できる一方で、声を生成するAIの活用には課題もある。一つは、海外の映画作品などが生成AIで同様の取り組みをすると、日本語版の吹き替えという仕事が失われる可能性があることだ。

海外の映画やドラマでは、2010年に亡くなった野沢那智氏が、アラン・ドロン氏や、ブルース・ウィリス氏などの吹き替えとして定着するなど、日本語吹き替え版が一定の支持を受けてきたのも事実だ。この点については「これから調整が必要」だと南沢氏は指摘する。

「海外のソフトが日本に入ってくる場合には、放送を中心にしたガイドラインが必要だと思っています。発信者が海外の場合は対応できませんが、日本の放送にかける場合には、日本の声優が出演することを理想としたガイドラインです。

国内では、声優の先輩たちが作った業界のルールがこれまで継承されてきました。ルールを大切にして、私たちは日本のアフレコ文化を守ってきました。国内で築き上げたルールを守り、これからどう発展させていくのかは課題の一つです。

ただ、海外のオリジナルキャストの声が日本語になった方が面白いという意見が、視聴者の大多数を占めるならば、将来はそういう文化に変わっていく可能性があります」

また南沢氏は、多言語化したからといって、あらゆる国に展開できるとは限らないことも、もう一つの課題に挙げる。

「AIで作った日本の作品の海外版によって全世界をカバーできるかといえば、それも違う気がします。国によっては生成AIの活用に対して厳しい制約があるかもしれませんし、法令化やユニオンのルールなどで、海外ソフトは自国の言語で吹き替える文化の国もあるでしょう。一つずつ経験を積み上げながら、調整をしていくべきではないでしょうか。一方で、声優がいなくて、翻訳、アフレコ、ダビングなどの能力を持たない国にとっては、多言語化の技術は貴重なシステムとなるでしょう」

既存の作品を多言語化していくためには、音声だけでなく、映像や原作の権利をどうするのかも今後整理が必要になる。そこで81プロデュースでは、イレブンラボとの業務提携によって、まずは自社で制作する幼児向け番組の多言語化に取り組んでいて、第一弾の作品を2026年春頃から展開する予定だ。同時に、既存の作品の多言語化も進めていくという。

音声の生成AI技術は、両社の業務提携を皮切りに、映画やアニメなどのコンテンツや放送の現場を変えていく可能性がある。その時期はそう遠くないのかもしれない。

「調査情報デジタル」編集部

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