Netflixによるワーナー買収がもたらすもの

だからNetflixがWBを買収しても嘆く必要はまったくない。むしろ、これから日本での劇場公開が危ぶまれる作品も、あまり間を置かずに配信されるようになるはずだ。劇場で観られなくなるより、配信で必ず観られるほうがいいではないか。

Netflixではいま、日本のアニメ作品が世界中で見られている。さらには、実写シリーズ「イクサガミ」は11月に配信されるとグローバルで2位を獲得、86の国と地域でトップ10入りした。放送と劇場だけの時代には日本の作品に到底無理だったことが、配信ならなしえている。いまや岡田准一は世界の人が知る俳優になった。

Netflixは映画興行はやめないと宣言している。まだまだ、世界で稼げる事業をやめるはずがない。先述の通り、配信の巨人だったNetflixが劇場との両刀使いになると捉えるべきだ。良質な作品を製作し、劇場と配信をうまく使い分けて届けてくれるなら、映画ファンとしてはむしろ喜ばしい。

もちろん、Netflixのやり方が具体的にどうなるか、うまくいくかはこれからだ。彼らは決して金にモノを言わせて買収するわけではない。新しい業態を切り開くべく挑戦しているのだ。その挑戦が、映画やドラマの世界を活性化させてくれる。

さて日本の業界はどうだろう?TVerやU-NEXTの挑戦は成功している。次のステップを踏み出すときではないだろうか。

またWBDがエンタメ部門とネットワーク部門に分かれCNNの行く末が危ぶまれている。TVerはほぼエンタメサービスだ。ニュースや情報番組は扱いが少なく、WBDのようにすでに切り離されているも同然だ。ローカル局を含めてどう再構成するか、日本でも挑戦が必要なタイミングではないだろうか。

NetflixのWBD買収を遠くから眺めている場合ではない。

〈執筆者略歴〉
境 治(さかい・おさむ) メディアコンサルタント/コピーライター
1962年 福岡市生まれ
1987年 東京大学を卒業、広告会社I&Sに入社しコピーライターに
1993年 フリーランスとして活動
その後、映像制作会社などに勤務したのち2013年から再びフリーランス
現在は、テレビとネットの横断業界誌MediaBorder2.0をnoteで運営
また、勉強会「ミライテレビ推進会議」を主催

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。