特集はシリーズでお伝えしているニュースの軌跡。2025年10月に行われた知事選についてです。
SNS上の誹謗中傷やデマが氾濫した今回の選挙。候補者のひとりだった男性も非難の的となり、満足な選挙活動ができなかったと振り返りました。
激戦の17日間からまもなく2か月 候補者のいま
蔵王町のすみかわスノーパーク。12月13日、オープンを迎えました。
客:「(シーズンには)毎年行っているので待っていました」
客:「一発目なんで、少し体を慣らして滑ってきます」

この日を、スタッフとして迎えた男性がいます。
「こんにちは」
丸森町に住む、伊藤修人さん。今シーズンの営業を前にこのスキー場で勤務し始めました。

伊藤修人さん:
「なんでもやる形ですけど、きょうはチケットと販売と、あと売店ですね」
「役所が長かったので、廃藩置県になってクビになった侍の気持ちがわかります」
以前、公務員として働いていた伊藤さんには、仕事をこなしながら考えていることがあります。
伊藤修人さん:
「観光資源がどう動いているのか自分の身で体験できる。特にインバウンドが熱い状況なのでどんな状況なのかしっかり勉強したい」
地方目線の訴え「苦労を子どもにさせたくない」たったひとりの戦い

伊藤修人さん:
「だれひとり取り残さない社会、誰一人取り残さない地域。誰一人取り残さない宮城県をつくるのが、私伊藤修人のビジョンでございます」
伊藤さんは10月に行われた知事選に出馬。
支持母体もなければ、スタッフもいない、たったひとりの選挙戦。
(街宣車の音声)
『宮城を次世代へつなぐため、皆様のお力を…』
【記者】録音でやってるんですね。
伊藤修人さん:
「録音で流して。とてもじゃないですけど、喋りながらでは喉が死んでしまうので」
選挙にかかる費用も大きな負担でした。

伊藤修人さん:
「ポスターはそれなりにお金かかってますね。横長で個人演説会の告知も含めた規格にできるんですけど、変形の規格なのでより高くなっちゃう。なのでA3に」
それでも立候補したのは理由があります。

伊藤修人さん:
「岩手県の沿岸に大学とかなくて、通おうと思うと盛岡まで行かなきゃいけない。仕事終わった後に宮古から盛岡まで2時間かけて行って、2時間かけてゼミやってまた2時間かけて帰ってきて(夜の)12時くらいって生活だったので」

「自分の生い立ちとか、自分のやりたかったことがなかなかできなかった。相当な労力使ったのもあって、こういう苦労を子どもにさせたくないというのが一番根っこにある」
しかし、知事選は自らの思いとは全く別のところで注目を集めました。
「村井が送り込んだ“極左のスパイ”とか」デマ・誹謗中傷に揺れた知事選

村井嘉浩氏(10月の選挙期間中)
「ネットご覧になりましたか。すごいでしょ。ひどいでしょ」
原因はインターネット上で広まった誹謗中傷やデマです。

村井氏を支援していた県議会議員も誹謗中傷の対象になり、警察に相談する事態となりました。
伊藤さんも例外ではありませんでした。

伊藤修人さん:
「ネットの党論番組に出たあとも私の応援をしてくれる人に『あんなやつを応援するのか』みたいな書き込みがあった」
「わたしの知らないところで「村井の送り込んだ極左のスパイだ」とか(書き込まれた)」
選挙では「家族に危険が及ぶかもしれない」との思いから、積極的な発信はできませんでした。
伊藤修人さん:
「家族がいるなかで、兵庫県知事選で家に反対派が押しかけてくるみたいなことも危惧して。住所とかを公開してSNSで批判を浴びてまで戦うやり方をとれなかった」
専門家は、SNS情報のみに接すると考え方が偏ったり意見が過激化したりするおそれがあると警鐘を鳴らします。

東北学院大学・源島穣准教授:
「SNSを中心とした情報戦が今後の選挙の舞台であることを確固にした選挙。県民、有権者にとっても、自分が正しいと思う情報に溺れていく、いわゆる『エコーチェンバー化』が進んでいく印象を強く持っている」
伊藤さんの得票数は2万票余りで、不本意なまま幕を閉じました。

伊藤修人さん:
「今後、こういった選挙がないように国でも対策はとってほしい。政治のコンテンツを収益化しないだけでも、だいぶ見える景色は変わってくると思う」
SNS上の誹謗中傷やデマに振り回された知事選。伊藤さんが願うのは民主主義のあるべき姿です。
制度設計で対策進むも…専門家は実効性に疑問
今回の知事選を受け、県議会ではインターネット上の誹謗中傷やデマを防ぐための条例制定に向けた検討会が設置されています。
検討会では投稿に対する削除要請や罰則規定も必要ではないかという意見が出た一方、表現の自由に対する配慮のため慎重な議論をすべきとの方針が示されています。
東北学院大学の源島准教授は「ルールを制定してもSNSの規制は難しく、いたちごっこになる可能性が高いため、実効性には疑問が残る」と話していて、今後も時間をかけて議論していく必要がありそうです。














