クマが人を襲う「2つのパターン」

クマが人を襲うケースとしては、大きく2パターンあるといいます。一つ目は、クマが「自分でもよくわけがわからない状況に追い込まれてしまって、手当たり次第に目の前にいる人を襲って自分の逃げる道を確保しようとしている場合」で、これはパニック状態だと山﨑教授は説明します。

もう一つは「すごく特殊なケースで稀」だとしながらも、「自己防衛のために人を襲った結果、人が亡くなってしまうと、その後に山で落ちている動物の死体と同じように食べ物として扱っちゃう場合がごく稀にある」と説明します。

クマを引き寄せてしまう行為と登山者としての対策

そして人がクマを引き寄せてしまう行為として特に問題なのが、餌付けや残したゴミなどだと山﨑教授は指摘します。

「クマは頭がいいんですよ。学習能力はものすごいので、何かと何かを結びつけて、人に近づけば食べ物が手に入る、キャンプ場に行けば手に入るとか、人がザックに入れているお弁当を食べることを覚えるとか、そういう風になってきちゃうと人に積極的に近づいてくるクマが出てくる可能性がある」と警告します。

「クマに食べ物を投げる、パンやソーセージを投げるなどの行為は知れたところでは時々あったんですけど、そうなるとクマは人と食べ物の連想を覚えちゃって、それがエスカレートすると人が怪我をする、あるいはテントを壊されるとかということになる」と説明します。

山でのクマとの遭遇について山﨑教授は「山の中のクマは比較的穏やかなんです。登山者がクマを刺激したり、ある一定の距離を保って無理に近づいたりしなければ、普通はクマが立ち去ってくれます」と説明します。

ただし「最近北アルプスなどで登山者のザックを狙ってくるクマとか、あるいは山小屋周辺に出てくるクマとかがいるという話も聞いているので、一部のクマは行動を変えている可能性がある」とも指摘します。

「クマの嗅覚はものすごい。一般的に犬は人間の数千倍から1万倍以上と言われていますが、クマの嗅覚はその犬よりも数倍優れている」。山崎教授は警告します。

「お弁当の中の海苔の匂いとかお米の匂いとかを覚えちゃうと思うんですよね。だから1回そういうものを食べちゃうと、テントの中にあっても、あるいはザックの中に入っても匂いが出ちゃうので、近寄ってくる可能性がある」

登山時の鈴の効果については「山の中では有効だと思います。クマによっては鈴の音がしても気にしないクマもいるかもしれないけれども、それよりはそれを気にして人間の接近に気がついて立ち去ってくれるクマの方が多いので、持たないよりも持った方がずっといい」とアドバイスします。

クマ対策のこれから

現在政府が発表しているクマ対策のパッケージについて、山﨑教授は「とりあえず個体数を減らそうというところ」だと説明します。「集落周辺のクマを一回押し戻さないといけないのでやらなくちゃいけないんですけれども、短期であったり、さらに中期で言うとクマをこれ以上集落に引き寄せないための環境整備をきちんとしていかないといけない」と強調します。

「とにかく今の状況だと一回クマを減らさないといけないんですけど、それを延々と続けていくわけではなくて、その効果を検証しながら、同じことが起きないようにするための努力をする」ことが重要だと指摘。

山﨑教授は見通しも示してくれました。

「来年はきっと少し落ち着くと思うんです。なぜなら2023年の翌年の2024年はある程度落ち着きました。その時に何ができるかなんですよね。また喉元過ぎれば忘れちゃうと、同じことが今度2027年に繰り返したら、ずっと右肩上がりで進んじゃいますよね。来年は何とかしたいなという風に思います」

個人でできる対策としては「自分の自宅周辺で管理できる食べ物、つまり庭先の柿の実とか、取り残しの農作物とか、あるいは家で作るコンポストなんかもクマを呼んじゃうので、そういうものは管理した方がいい」とアドバイスしています。

(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年11月26日放送「クマの生態に何が起きているのか?~各地で止まらぬ熊被害」より)