今年、日本各地でクマによる人身被害が深刻化しています。環境省の発表によると、今年4月から10月末までの間にクマの被害に遭った人は11月時点で全国で196人に上り、そのうち13人が死亡するという痛ましい事態となっています。特に秋田県では10月だけで37人が被害に遭うなど、統計開始以来、最も被害者数が多かった2023年度を上回るペースで増加しています。

かつて山奥に生息していたクマが人里に現れるようになった背景には、何があるのでしょうか。さまざまな情報が飛び交うなかで、「わかっていること」と、「わからないこと」とは? 長年にわたり、クマをはじめとする大型野生動物の生態を研究している東京農業大学教授の山﨑晃司さんに訊きました。

(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年11月26日放送「クマの生態に何が起きているのか?~各地で止まらぬ熊被害」より)

日本のクマの種類と生態

日本には主に2種類のクマが生息しています。北海道には「ヒグマ」、本州には「ツキノワグマ」が分布しています。四国には約30頭のツキノワグマが残るのみで、九州では1940年代に絶滅してしまいました。

山﨑教授によると、クマは食肉目に分類されていますが、見た目とは異なり雑食性であり、地域にもよりますが食べ物の8割から9割は植物質だといいます。「体に見合わず果実とか、草の葉っぱとか、あるいは花なんかを食べている、そういう動物です」と山﨑教授は説明します。

ヒグマとツキノワグマでは生態にも違いがあります。ヒグマは開放的な環境に適応していて、大人になると木に登るのが苦手です。一方、ツキノワグマは「樹上生活がすごく得意で、短い爪をスパイクみたいに使って木にスルスル登っていき、木の上にある果実や花、葉っぱを他の動物が食べられない場所で食べる」という特徴があります。

クマの出没傾向と地域差

クマの出没件数、人身被害件数、捕獲されたクマの数はいずれも右肩上がりで増加しています。しかし山﨑教授は「それが異常ということではなく、起こり始めたのは実は2000年代初頭。もう20年ぐらいこの状況が続いていて、十分予測できる話なので、今年が異常だということではない」と指摘します。

地域別に見ると、2023年と2025年のクマによる被害が最も多かったのは北東北(秋田県、岩手県、青森県)で、特に秋田と岩手で顕著だったといいます。「西日本は今年も落ち着いているので、本州全体でクマが暴れ回っているという印象を皆さんが持たれるのは事実として正しくない」と山﨑教授は説明します。

確かに北陸地方や東京でもクマの出没が報道されましたが、山﨑教授によれば「背景としてはクマの分布域と、それに伴って個体数も増えているのは確かなので、北陸であろうと東京であろうと、傾向としてはそういうことはあると思うが、東北のような状況にすぐになるわけではない」とのことです。