クマが人里に出てくる理由とは?

クマが人里や街中に出没する理由については、いくつかの要因が考えられます。山﨑教授は「よくテレビなどでは柿や栗の木が人家周辺にあって、そこにクマが執着している映像が出ていますよね。あれは一つの大きい要因だと思います」と説明します。

しかし、近年特に注目しているのは農地の管理状況だといいます。「やはり農地がきちんと管理されていない場所があって、そういうものが広大なクマの餌場になっている可能性がある」と山﨑教授は指摘します。東北の具体例として、水田の代わりにソバや大豆を作付けしている場所が、適切に管理されていないケースがあるといいます。

「そうなると山の中よりも集落周辺の方がクマにとって住みやすい場所になってくる。その先はもう市街地ですから、市街地に飛び出てくるクマが確率的にどんどん増える」と山﨑教授は危惧します。

さらに、「もしかしたら山の中よりもその集落周辺、いわゆる山裾の方がクマの密度が高くなってきているのかもしれない」という仮説も提示します。

「メガソーラーが影響」説の真偽は?

メガソーラーの開発がクマの出没に影響しているという説については、山﨑教授は「メガソーラーが直ちに山の状況を変えて、結果としてクマの出没を促進しているかというと、それは証拠をもっては言えない」と、慎重な見解を示します。

また、森林環境については「1970年代初頭ぐらいまでは拡大造林のような戦後の復興のための杉や檜の植林が国の施策で行われていたが、それ以降はそんなに山を改変していない。1970年と考えるともう50年以上は山の状況が大きく変わっていない」と説明します。

むしろ変わったのは「集落周辺」だと山﨑教授は指摘。過疎化や高齢化の進行によって、人とクマとの接点となる場所の環境が変化しているというのです。

気候変動の影響と狩猟者の減少

気候変動の影響については「全然影響がないとは確かに言えないと思う」としながらも、「ものすごく短期的に見れば、今の東北みたいなところで積雪がどんどん減っていますよね。あるいは雪の時期が降雪して積雪になる時期が後ろにずれるとなると、林床という森の床の部分に落ちた木の実などをクマが晩秋や初冬まで食べることができる」と説明します。

もう一つ大きな要因として山﨑教授が挙げるのが、ハンター(狩猟者)の減少です。「これまでは趣味の狩猟のほか、いわゆる東北のマタギのような人たちが山の中でクマを追い立てて捕る狩猟によってクマにプレッシャーをかけること、人は怖いんだと教えることと、ある一定のクマの数を捕って全体の数を抑制してきたが、それがもうできない状況」だと説明します。

「ハンターになる人が若手にほとんどいなくなってしまった。今活動しているハンターの平均年齢もおそらく70歳や80歳になっています。今市街地などでクマが出ると、オレンジ色のベストを着たハンターの方が出ていますが、皆さんお年寄り」という現状があります。