技術的判断の積み重ねがつくる『フェイクマミー』の映像

金曜ドラマ『フェイクマミー』より

第9話で花村薫(波瑠)が“自首”を決意するシーンでは、ジョン監督が事前に絵コンテを準備した。絵コンテ自体は他の場面でも描いているものの、このシーンについては、子どもたちの稼働時間や学校でのロケの制約が重なり、演出意図を細かくすり合わせる時間が確保しにくい状況だったという。スケジュールの中でもスタッフ全員が同じイメージを共有できるよう、ジョン監督は撮影の合間を縫ってストーリーボードを描いた。

「CMの撮影では絵コンテが必須なので、ドラマでも事前に準備できるのが理想」と語るが、ジョン監督は“絵コンテ通りに撮ること” に固執しない姿勢を貫く。撮影現場で得られる俳優の演技や状況を重視し、実際の撮影ではカットの構成を柔軟に調整しながら、シーンの厚みを築いていった。

スタジオ撮影では、セットのサイズやカメラ位置に余裕がないことも少なくない。そんな環境では、美術部との調整が必要となる。「俳優の動きを妨げない空間設計」を念頭に、撮影効率と芝居の質を両立させるための調整が続いた。

ジョン監督が撮影現場で培ってきた迅速な判断力は、太田さんとの照明設計においても大きな役割を果たしている。通常、ドラマ制作ではフレーム内に照明機材が映り込むことは避けられるべきだが、太田さんは「ここにライトを置けば、より効果的な光がつくれる」という観点から、あえてフレームに入る位置に照明を置くことがある。

そのこだわりを尊重したうえで、ジョン監督は「どこまでなら編集で処理できるか」を素早く見極め、必要に応じて消す判断を下す。この経験に裏打ちされた判断の速さが、現場の創造性と効率を両立させている。

こうした“制作上の判断の積み重ね”こそが、作品の独自性を形作っている。単なるチームワークの良さではなく、毎日の撮影で導き出される具体的な技術選択が、作品の表情を支えている。

金曜ドラマ『フェイクマミー』美術セットの一部