人気作で磨かれた技術も 都市の風景を生む美術設計

ベンチャー企業「RAINBOWLAB」社長室(金曜ドラマ『フェイクマミー』美術セット)

劇中で印象的なのは、窓の外に広がる自然な街の景色。しかし実際にはロケではなく、スタジオ内で“幕”を使って作られた背景だ。古積さんは、「特殊なプリントで制作された幕を使用してデイシーンとナイトシーンの両方を撮影しています」と明かす。

しかし、スタジオスペースが限られる中でこの幕を使用したため、照明の角度や光量の微調整に苦戦したという。幕に使用した写真は片村さんに依頼し、DTP(パソコン上で印刷物のデザインやレイアウト、印刷用データの作成を行うこと)処理は古積さん自身が担当。「ビルの明かりだけが自然に浮き上がるようになっているんです。あのサイズの幕でここまでやるケースは珍しいと思います」と語る。

景観選びも慎重に行われた。舞台となるマンションが“都内のタワマン”と聞いた時点で候補は浮かんだそうだが、キャラクターの「達成度」や「生活レベル」が過剰に伝わらないよう配慮が必要だった。

「背景は単なる記号ではなく、そのシーンの“ムード”を規定する大事な要素なんです」。その言葉どおり、窓の外に広がる景色は、物語の空気そのものを静かに支えている。

窓には特殊プリントで制作した幕を使用(金曜ドラマ『フェイクマミー』美術セット)

美術チームの緻密な設計は、ドラマにおける生活空間を単なる背景ではなく“情報を伝える装置”へと昇華させた。光や構図の計算、空間の密度といった要素が組み合わさり、視聴者に違和感を覚えさせないリアルさと、印象的な画作りが両立されている。現場で積み上げられた技術と判断が、作品の完成度を裏側から支えている。