現在放送中の金曜ドラマ『フェイクマミー』(TBS系)の世界観は、細部にまでこだわった美術設計によって支えられている。演出・撮影・照明との議論を重ねながら、キャラクターの暮らしが自然に立ち上がる空間が形作られた。物語の説得力を下支えする美術デザイナーの古積弘二さんに画面には映らない制作の工夫を聞いた。

ドラマ×CMの感性が交差した、美術作りの“原点”

金曜ドラマ『フェイクマミー』より

『フェイクマミー』の美術作りは、CM撮影を多く手掛けてきた演出のジョン・ウンヒさんとの対話から始まった。ドラマ撮影とCM撮影の違いを意識しながら、「日常の自然さを損なわずに、でも画として印象に残る家」を目指す作業が最初のテーマとなったという。

「ジョンさんとは『家そのものが語るような美術を作りたい』と何度も話しました。家具の配置、壁紙の選び方、生活感の出し方まで、住む人の価値観が反映される家にしたかったんです」と古積さんは振り返る。インテリアの色味や家具の素材、子ども部屋の小物に至るまで、キャラクターの性格や日常の動きに寄り添うための議論が重ねられた。

打ち合わせには撮影監督の片村文人さん、照明技術の太田宏幸さんも参加しており、普段のドラマ美術では見えにくい部分まで考慮されている。こうして、日常的な生活空間が、カメラを通すと“普段とは違う印象的な画”として映る仕組みが生まれた。

「話しているうちに、『この家族ならここに何を置くだろう?』という場景が自然に浮かんできました。ジョンさんたちとのディスカッションが、それぞれキャラクターの世界観とつながっていったんです」と古積さんは語る。

こうして、家の隅々にまで物語性を宿らせる美術作りの方向性が、この段階で固まった。CM的な計算の光とドラマ的な生活感が融合した空間は、視聴者に自然に寄り添いつつ印象に残る画面を作り出している。

金曜ドラマ『フェイクマミー』より