台本に潜む“暮らしの温度”を、空間に落とし込む
具体的なプランニングが進む中で、台本に散りばめられた細かな描写が美術チームに多くのヒントを与えた。古積さんは、「どの作品でも台本から人物の価値観や背景がにじみ出てくる感覚があります。それをどう空間で表現するかを考えると、今回は家そのものがキャラクターの一部になる感覚がありました」と振り返る。
例えば、ベンチャー企業の社長である主人公・日高茉海恵(川栄李奈)の家は、成功者としての余裕を漂わせながらも、どこか肩の力が抜けた“生活者”としての表情を見せる。これは台本を読み込む中で自然と導かれたバランスであり、「豊かさを見せつつも、視聴者が感情移入できる温度感を大事にしました」と古積さん。
撮影現場でのセット作りは、想像以上に複雑だった。「リアルを追い過ぎると撮影の自由度が落ちるし、ドラマ的にデフォルメすると生活感が消える。その中間を探し続ける作業でした」。家具の高さや導線、カメラの動き、役者の動線など、全てを絡み合わせるため、椅子一脚の置き場所を決めるだけでも何度も議論が重ねられたという。
特にリビングは、“行き過ぎた豪華さ”を避けるため苦心した。「由緒正しい家柄の(田中みな実、笠松将が演じる)本橋家のようなハイエンドな家庭も出てくるので、茉海恵の空間が豪華になり過ぎると対比が消えてしまう。その絶妙なバランスを整えるのが大変でした」と明かす。
削ぎ落とし、選び取りながら組み上げる作業が、セットの“美術の密度”を生んでいる。














